ギターは「引く」もの

 「ギターを引く」というのはお約束の誤変換ですが、そういえば自分は確かに引いているなあという心当たりがありました。
 ただしピッキングのことです。いわゆる「ピックが負けた状態」です。弦がピックに当たって「引かれ」たあと、離れる、って弾き方になってます。ただし当たりが浅いので、むしろ、ピックが弦にあたった状態でピックを引っ張ると、弦をすり抜ける、という方が適当かもしれません。感覚的には「江夏が石渡に投げたウェストボール」のようにすり抜けている。
 ここまで来るとダウンピッキングは伊藤智仁のスライダーのように、アップピッキングは平松政次のシュートのようになっている(といいなあ)です。弦をはじいているのではなく弦の表面を引っ張って回転させているわけです。

 たぶんこの弾き方はかなり特殊なもので、テクニカル系のギタリストは「押して」いるのが主流みたいですね。ヘビーメタル系のマイケル・アンジェロや、日本人男性なのに米国風女性名を芸名としているケリー・サイモン(あちらの趣味なんですかね?)は弦を押し切って音を出しているように見えます。アンジェロは分かりやすくピックガードにつけた指を伸縮させえることにより、手の甲を動かして弦移動し、指の力で押し切ってます。特に速く弾くとき。
 弦を「引く」場合は引いてから離れるまでにわずかなタイムラグがありますが、「押す」であれば押し切るタイミングがコントロールしやすいので速く弾くには向いているんでしょうね。
 こういう例を見ると、ピッキングするときは脱力、というのが「一方的な意見」というのがよくわかってきます。そのかわり筋力はいるでしょうね。アンジェロも腕を強化した、といいますし、「世界最速」ジョン・テイラーさんも筋肉の盛り上がりがものすごい。

 なぜ「引く」と「押す」が筋力の違いになってくるかというと、同じ材料でも、引っ張り強度の方が強いってことと関係しそうです。筋肉を引っ張って音を出す方が、筋肉で押して音を出すより楽なんでしょうね。かくしてベンチプレスなら相当の力が出るが、手首はさっぱりな当方は「引く」しかないわけです。だから「押す」音は出せない。えっとー、「叩く」って流儀もあるようですが(私もなりふり構わぬ速弾きをやっていた時はたまにできた)。

 なお、引っ張り強度の方が強い、というのは自転車のスポークを例にとって説明してもらったのが分かりやすかったです。
 初期の自転車(木製)はタイヤにかかる重量を、スポークが「踏ん張って」支えていたそうですな。これをスポークを締め付けることによって「リムが中心から引かれる力を調整することによって円形を保つ」方式に変えたため、車輪が今のように軽く作れるようになったのだとか。(小学校低学年の時の知識が今頃役に立つ?とは。べんきょーって、しておくもんだなあ。)
 つまり、自転車が立っているとき、一番頑張っているスポークは、接地点とハブをつなぐ部分ではなく、その180度逆の、上の部分であることになります。
 なので、アンジェロ先生やジョン・テイラーさんの筋肉を見て、「あー、押し切るにはこれだけの太さがいるんだろうなー」と思う次第。

 ところで、ゲイを思わせる「ケリー・サイモン」の芸名は何となく落ち着かないところがありますが。これがホントに女性で、たとえば、もうり さや(毛利 彩文)
という本名であれば、
「ケリー・サイモン」
と名乗っても、漢字を音読みにした、ということで理解できますなあ。

 ところで!さっきちらっと出した伊藤智仁、ですが、全盛期わずか3か月ながら1993年6月9日に読売相手に1試合16奪三振のセリーグタイ記録をマークしたことで記録に残り、伝説的スライダーが記憶に残っています。
 さきほどの16奪三振の試合、結局代打篠塚のサヨナラホームランで負けるのですが、当事者の三人がテレビで対談してました。キャッチャー古田は「あの篠塚さんが俺たちの間合いを嫌った。これは新記録いける」と思った、と強調してましたね。伊藤も当然同意。ところが篠塚はちらっと「スライダーが来たら1球見ようと思っていた」。つまり、スライダーが来るかどうか投げる前に分かったということ。確か初対決だろ。結果は初球サヨナラホームラン。つまり篠塚の方が役者がはるかに上だったということ。
 頭がいいはずの古田は、気が付いたのを隠したのだろうか。それとも気が付かないふりをしていただけなのだろうか。

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