南極観測船、アリエルたちがそっと助けてくれてたのかも

 PanasonicのECQEコンデンサ、4年半前に生産中止となったはずが、秋葉原のガード下になぜか売っており、あたりまえのことだが買ってきた。音質が一部の人にだが、ものすごく評判が良いのだ。生産中止となったあともチップ部品として後継は作られているが半田付けが恐ろしく難しいそうな。そりゃ、やってできないことはないが、手順を考えるとまた小道具が必要なりそうだ。
 ここでいう「手順を考える」ということは、実際に手を動かす前に頭の中で何度もシミュレートすることである。それでも実際に作る段には不測の事態が起こるもの。このフィードバックは事前のシミュレーションと比較してこそ「経験」になる。フィードバックがなく「やってみたら失敗しました」は「体験」にとどまり、糧にはなるが、その効率は経験に比して著しく劣るだろう。(ワタシ結構いいこと言っているよ。)

 今回、うちのガキが南極観測船で演奏をする。もちろん船に乗って南極にゆくわけではない。退役してスクラップになるべきはずが地球環境への意識を高めるシンボル、として生き延び、岸壁に係留されている。時折イベント会場になる、そこに招かれたというわけだ。

 例によって録音するが、南極観測船ということで過酷な条件で使用することが必要となる。氷点下40度との戦い、なんてもんはないが、過酷な条件には違いない。
 真冬と言ってもいい時期に海からの風をモロにうける岸壁での録音となる。
 つまり、風のノイズが恐ろしく大きいことが懸念される。また反響がないので音量は期待できない。フルートなんかほとんど聞こえないだろう。音の深みも出にくいし。
 マイクに風よけをつけることは当然考えた。人工毛皮という環境に優しくない素材で作ったという人がWebでレポートをあげている(環境に優しくないというのは化石燃料を消費して作るから。これが天然皮革なら再生可能である)。どーも分厚くて音が悪そう、と精神衛生上よくない。もっとフィットして通気性もよい高級素材があって、あるところには廃物として積まれてそうなのは分かっているのだが、人道的に「くれ」とは言いにくい。(つまり、そのう、もう使えなくなったカツラ。)とりあえずうちのガキが赤ちゃんよりは大きくなったころに着ていた寝間着の布でも使おうと思うが、ここは「超低域を拾わないように定数を変更したマイク」というのもいいかなと思ったのだ。超低域はマイクアンプでカットするという手もあるが、マイク出力から押さえたほうが、マイクアンプの入力が飽和しない分、音質的にも有利かな、と推測した次第だ。以前、コンデンサの容量を一桁間違えた(若松通商が間違えた)ものを屋外吹奏楽で使うとなかなか良かったって経験があるからね。そんなことを考えているときに、気にはなっていたけど入手は難しそうだな、の生産中止から4年半も経っているコンデンサを見つけたのが冒頭のシーン。

 ただし、このコンデンサ、情報が少ない。出回っていたころはあまりブログで「コンデンサの音質比較」なんてやっている人もすくなかったのか、そもそも流通量が少ないのか。なので高い評価をしている人は分かっても「方向性」が分からない。
 電解コンデンサでもあるまいに交流を流すコンデンサに方向性も何もなかろう、と思われるのは分かる。私もそう思っていた。が巻きはじめと巻き終わり、という風に2つの極で構造が対象でないことから、極性は頑として存在するようなのだ。プラスマイナスではないとするとどういう方向性かというと「エネルギーの高い側から低い側」という方向性らしい。現役で音質の良さをうたうコンデンサの場合、だいたいはその方向性を実験した人がいて、Webに結果をUPしてくれている。従来は正直それを鵜呑みにして配線していたのだが、今回のコンデンサはその辺の情報がない。大した差もあるまい、どっちでもいいや、と思っていたが、気にしはじめればとまらない。ブレッドボードに部品を展開し、今まで作った「どちらかというと失敗作」のマイクを解体。キャノンコネクタを取り外し、はい、実験することにしました。

 音量が期待できないことを承知で回路方式をシンプルなものにしていたので実験が可能になったところもあります。経験上この方式は、細かい音は今一つだが、回路構成がシンプルな分、音の抜けがよい。だから屋外での吹奏楽のようにホールの残響は見込めない、音の勢いで勝負、という録音には有利だろう、と思ったわけです。この部品点数の少なさだからブレッドボードに組めた。
 右チャンネルと左チャンネルでコンデンサの向きを変える。向きというのは表面に印刷された文字の方向を基準とします。
 準備は毎日チョコチョコと1週間ほどかかりましたが、実験結果は5分で出ました。  最初はさあ、何かをハイレゾで録音してその再生音をSTAXの高級ヘッドフォンで聴いて、なんて手順をシミュレーションしてたのですね。かなり微妙な差と思ったから。だから何を録音しようか。子供にホルンを吹かせるわけにはいかないし、私が本でも朗読しようか、でも自分の声がどんなのか自分では分からないしなあ。できるだけ再生の難しい音というと、長岡鉄男さんが断言するには波の音がもっとも困難。これはよいかもしれない。岸壁での録音を前提としているのにふさわしい。
 でも、海に行ってテストは現実的でないよな。なぜ波が最も困難かというと「発音源が常に形を変えるから」である。つまり一般に水の音は再生困難なのだ。(波ほどダイナミックに動かなくてもだ。)なので「熱帯魚の水槽のあぶくの音」なんてのも考えた。が音量が小さすぎるのよね。。。そこでそこで、お食事中のひとごめんなさい・・・トイレの水を流す音。技術者の探究心は多少のアレなんぞ気にしないのだ。
 しかし、その必要はなかった。ブレッドボードとマイク、そしてミキサーをつないで、きちんと音が出るかをヘッドフォンでモニターしただけで十分だった。
 最初聞いたとき、正直失敗したか、と思ったんだ。とりあえず自分の声で確認したのだが左右の音量が違いすぎる、これはマイクカプセルの半田付けそくったかな、あるいは個体差の大きなものをつかんじゃったかな、と。が、手を叩いてレベルメーター(LEDですが)を見るとほぼ一致。あれ、方向性ってこんなにはっきり出るの?こんどはコンデンサの方向をそろえてみました。分かりました。こんどは両方ぴったり。音質の違い以前に聴感上の音量の違いとしてはっきり聞えるんです。文字の終わる側がホット側です。

 演奏の日は、その日一日だけそんなに寒くないという幸運。風も悩まされはするが、風のノイズがどの程度のものか見てみようか、と思わせてくれる程度(甘かった)。が、録音ははっきりいって失敗。左右のレベルは合っている。右だけ/左だけ聴くと問題はない。が、なぜか同時に聞くと左からしか聞こえないような錯覚に陥る。右耳の神経がどうかしたかな、という感じだ。家に帰って分解すると「コネクタの配線まちがっとった」油断した。ノイズの出方からしてアースの配線に問題があるのはわかっていたが。コンデンサでカットしているとはいえ、妙な所に直流が流れ、ピーク音が入ると保護回路が働いてリミッターのようになっていたらしい。ああ、ここはシミュレーションしてなかったわ。録音としては大失敗で落ち込んだ。
 しかし、音自体は今までにない、オンマイクのような臨場感。録音ポイントから一番離れたパーカスの音が不気味なまでに入っている。低音がどの程度切れているかは低音激弱のバンドなのでよくわかrない。直して使お。屋外吹奏楽録音用として申し分ないものができそうだ。少々高くついたシミュレーションだけども。

 砕氷艦の上では、高校/高専による気象観測機器コンテストがあった。結構楽しいです。やっぱり地方の特色を生かしている方が興味をそそるよね。茨城の高校が「竜巻」を研究なんてそれっぽいじゃないの。(実感がいま一つだが。)風船に観測機器をつけて、なんてのはやってる方は面白いのだろうけど、言ってみれば通販でそれ用に作られたセンサーを買って飛ばせば、ある程度まではできる。もっとも南極観測船が風船を上げて気象観測してたってのがあるからつきづきしいのだろうがね・・・あげた気球が偏西風に乗って大陸一周して帰ってきたこともあったらしい〜元観測院の方に伺った〜それくらい風を邪魔するものがなく、ようするにキツイ・・・。
 私のベストは鹿児島県立錦江湾高校。気象庁のものより扱いやすい桜島の火山灰の観測装置を安く作る。私がその場で考えられる限りの突込みをしたがすべてクリアしていた。そうなると当方の意見はいっきょに建設的な方向に向く。「論理展開は逆にして精度を高めるために既存のものを組み合わせるのではなく、自分で作ることにした、って方が、やったーって気にならないか。すると今LEDだけど、波長を揃えてさらに精度を高めようと、今度はレーザー使いたいよね。」
 残念ながらこの大会が終わったらすぐに鹿児島に帰るらしい。少しでも空き時間があれば秋葉原案内してやったのに。「なんでこんなもん売ってるの?」ってのが見つかるのだ。それは「見せる」という点では小型コンピュータとセンサーを組み合わせて、リアルタイムで分析/記録なんて方がかっこいい。が自分としては観測機器を自分で考えながら手作りしているような奴に協力してやりたいよね。Raspberry Piで自動記録なんてのなら、地方にいてもなんとかなるのよ。私の突込みを全部返したということは、実験に先立っておもいきり脳内でシミュレーションしているはずだ。
原始的な装置なんだよ。でも気象庁と0.98以上の相関係数を持っての観測ができる。こういうものを組み上げたやつならアキバのガード下やラジオデパートを歩いただけで、それだけでも成長するだろうに。

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