ヘッドフォンで練習

 コドモの中学受験で、各校の雰囲気を知るために文化祭めぐりをしたのだが、そこそこはまってしまった。私立学校にとっては生徒を集めるためのショーウィンドウ。相当力を入れている。正直しょうもないことをやっているとは思うが、皆さん頑張っていることだけは確かで、そういう「元気」、そして「ちょっとした工夫」を見る価値はある。
 去年はガキの行く先に次々と引っ張っていかれて見たいものも見れなかったが、今年は吹奏楽部とか軽音学部とかの演奏、腰を落ち着けて聞くことができた。不思議なくらいに学校による差があるのね。
 正直、演奏のレベルは〜うーんと、えーと「微妙」と言ってごまかせないくらいにアレなんてところもある。この学校、一応国民的歌手を何人か輩出してきた伝統校なのだがなあ。
 お前の標準は習志野高校吹奏楽部だろう、六大学合同応援団を向こうに回して互角以上に渡り合ったあそこと比べるな、と言われるとそのとおりなのだが。(それでも2016年は弱かったと思う。2015年は1回の裏、かならず1点を吹奏楽部がプレゼントしていた。)

 一応下手な理由もしっかりつかめているのだが/吹奏楽はこのくらいにしておこう。
 吹奏楽部や管弦楽部と違って部全体でアンサンブルをとらない軽音楽部も、やっぱり出す音に校風ってあるみたいですねえ。合奏するなら先輩の影響をもろに受けるから音やタイミングの取り方が受け継がれていくのも分かるが、だいたい学年別になったうえで独立してバンドを組む軽音楽部でも、似通った傾向が出るようだ。どーしてみなさんおしなべてネックを手で挟んで持っているのかな?多分「Fコード」を押さえるコツとして「親指と人差し指で挟め」という指導が徹底しているのだろう。ストロークは肘の開閉でやるというのは、きっと先輩の指導が行き届いているからなのだろう。私が口を挟む余地はない。しかしどうしても一人、マンツーマンで教えたくなった。昔の私のように下手。機会があったらまた行こう。

 まあ、中高生ならこんなもんか、と思って別の学校に行ったら、今度は上手い人がいた。
 ほとんどストロークプレイだけしか披露してくれなかったが、肘の開閉、ではなく、手首の尺屈/橈屈、肘の回内/回外のみならず肩の外旋/内旋まで使って弾いている。弾く弦やリズムによってそのバランスを変えているので表情が豊かである。特筆すべきは各運動のベクトルが一切打ち消し合うことなく連動していること。あ、尋ねておくんだった「メレンゲ作るの得意ですか?」って。その子のおとーさんとは話したんだけどね。おとーさんがしっかり教えているらしい。エフェクターはお父さんの手作りだ!

 それはさておき(ものすごい重要なことを言ったんだが)、そんだけ上手い子とはいえ、完璧ではない。ネックの持ち方は「まーあんなもんだろ」。(持ち方についてもそのうちYouTubeに上げます。)問題は「そこそこのギター(フェンダージャパンの10万円クラスか?)とアンプ(YAMAHAのF-100だった)使っているが、なぜか音が通らない。

 その時に気が付いてあげればよかった。この子ひょっとして普段は「ヘッドフォンで練習」してないか?いや知らんけど直観。どうして気が付いたかを強いていえば、うちの子がバイオリンを弾いてきて、弓で音を飛ばし始める前の音に似ているなあ、と気が付いたこと。バイオリンでは結構「空間を駆動する」という感覚が重視され、コンクールの前にはホールを借りて広い空間に音を響かせる、という練習をする人がいるというくらいだ。

 つまり音は出ているのだが、なぜか通らないのだ。マイク自作して録音すると似たようなことあったよ。左右のレベルはさほど変わらないし、室内でテストしたときには問題ないように思えたが屋外での吹奏楽団の演奏を録音すると大違い。ヘッドフォンで聴くと片耳だけしか聞こえないようにさえ思える。確かに鳴ってはいるのだが。。。この聞こえない方の音みたいな感じなのよ。

 こんなことが起こる理由をできるだけ物理的に推測すると。ピックで弦をはじいた直後の音が弱い(キレがない)のだろう。音の立ち上がりといわれるものだ。なんで気が付いたかというとオーディオ装置、軽いコーンを余裕のあるアンプで鳴らすと隣りの部屋で聞いてもあまり音量が小さくならないのだな。立ち上がりがよくなるからね。よーするに実感できる音量は立ち上がりのピーク音に左右される。ギターアンプのスピーカーから出た音は部屋の中、ホールの中、屋外の大量の空気を駆動する。だからピーク音が大きくないと聞こえない。ところがヘッドフォンでは耳と振動版の間のわずかな空気を動かせばよいだけだ。そこに空間を駆動するようなピークをぶち込めば耳が痛いほどになる。いきおい、ピークを落として弾く習慣がついてしまう。これでは屋外で音を飛ばすことはできまい。どうしてもというならボリュームを上げざるを得まい。そうなるとボーカルが埋もれがちになる、というよくある問題に直結する。

 先ほどその子のストロークを褒めたときに「手首の尺屈/橈屈、肘の回内/回外のみならず肩の外旋/内旋まで使って弾いている」と書いた。指先については意識的に書いていない。そんな小さな動き見えないから分からないから当然と言えば当然。しかしその子に足りないポイントは弦をはじく一瞬、指が受け取った腕と手首全体の力をピックを通して弦に伝えきっているか、だと思うのだよな。(これがホントにうまく行くと、弦が弾力をもって力を返す時間すらなくなる。すると丁度水泳で腹打ちするときの水面のように弦が固く感じられて、ピックの方がはじかれるようになる。:個人の感想です。)

 さて、ここで感じたことどうやって実証しよう。本人に聞ければよいのだが、似たような例はないかなあ。ピアノを教えた経験のある人に尋ねてみましょうか。
 「普段、電子ピアノを弾いている人と、グランドピアノを弾いている人、タッチで判別できますか?」そこで「グランド弾いている人は鍵盤の底をちゃんと打つ感覚ができてるね」なんて返ってくれば、何となく私の勘が正しいような気がする。

 そんなことを考えると、習志野高校の吹奏楽があれだけの音を出すのも分かる。プロ野球の本拠地のうち両スタンド間の距離が最も遠い千葉マリン。スタジアム全体の空気を震わせるべく、息をきっちりと吐ききる訓練が母校を応援するという熱狂に引っ張られて十分すぎるほどにできているわけだからね。(話によると野球場は200人を超える部員が全員で演奏できる貴重な場所らしい。だから燃える!とか。)

 手近な元音楽教師に尋ねてみました。
 電子ピアノ弾いている人だなというのはもちろんわかる。電子ピアノは適当に叩いても音は出るから指の形がよくない。(筆者解釈:打鍵する力が指の形がよくないもんだから鍵盤に伝わりきっていない。)またアコースティックな残響が分からないからレガートがかぶったりスタッカートの切れが悪かったりする。
 なるほど。

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