ジミは凄い

 エレクトリックギターの歴史において、もっとも偉大なギタリストは誰かというと、ジミ=ヘンドリックスということで固定されている。そういうことになっている。
 いくつかエピソードが残っている。右利き用のギターを左で構えているので弦を張る位置が通常と逆である。ところがボーヤが勘違いして右利き用に張ってしまった。ジミは少しもあわてずそのまま弾ききってしまった、とか。チューニングがずれたのを都度弦を引っ張って直しながら弾いていた、とか。ものすごく勘のいい人らしい。ギターを操るときに、どう弾くかなんて意識しなくても思う音が出せてしまった人なのだろう。ギターから音を出すのにインターフェースが不要、だったわけだ。

 しかしながら当時「エレキギターからはこんな音が出るのか!」という衝撃も、半世紀の時が経ち、ずいぶんと薄れてしまったらしい。「なんでジミヘンってそんなに凄いって言われるの?」「デビュー当時は衝撃的だったんだよ。」
 ということで過去の人、扱いされていた。かくいう私もリアルタイムで聞いてないのでいかなる衝撃であったか、の実感はない。

 ところが、ジミ=ヘンドリックスの代表作「Purple Haze」のリフを弾こうか、ということになってやってみた。当然ニュアンスは出ない。(これでもキースのBrown Sugerはいい線行くようになったのだがな。コツがわかった。)
 技術的には演奏可能であるが、ニュアンスが出ないときはそのフレーズをスキャットで歌ってみて感覚をつかむのが良い。ようするによくあるフレーズを例にとると、
「ズダダダダダダダ、ダダダダダダダダ、ちょんわちょんわちょんわちょんわ、ジャーン」
という風に歌うのだ。
 え、俺、Purple Hazeが歌えるではないか。我ながらいい線行っている。体内のバイブレーションが口から飛び出ている。そう、これが弾きたかったのだ。ここで最初の衝撃。ジミはホントに歌うように弾けていたのだ。

 歌うように弾く、というなら現役ではジェフ=ベックがいる。大ファンである。が、この人はやはり「歌うのを真似て弾く」のだな。ジミ=ヘンドリックスは違う。自分でもこんな歌い方ができるなんて、ジミの音を真似ようとするまで知らなかった。ジミのギターは人間の声、歌える音楽の可能性すら拡大したのだ。ベックとは違う。悔しいが違う。これが第二の衝撃。

 ともかく歌えたところで、ギターを持って・・・全然ダメ。
 これがリッチーくらいまでなら、技術的に至らぬ点は多々あるが、なんとなくギターに移せるんだが、全然それっぽくならない。そろそろ当たり前という感じはするのだが、ともかく第三の衝撃。

 ジミ=ヘンドリックスにとってギターは自分の口と同じレベルで自分の中から湧き出る情動を音にすることができる、ここまでくると「道具」ではなく、神経の一部なんだろうな。多分肉体よりも近いところにあると思うぞ。少なくとも「手を叩いてリズムをとる」よりも自分の精神に近いところにギターがあるんだろう。これは凄い。先ほども書いた表現を使うと、ギターから音を出すのにインターフェースが不要、だったのだろう。「自分から湧き出る音楽がギターで直接音になる」なのだわ。

 さきほどのフレーズをスキャットで真似するというの。中学高校で楽器とバンドを(ほぼ)同時に始めた人にすすめたい。
 どうせ楽器なんぞろくに弾けやしないのだ。合わせようったって最初はつまんないだろうし、迷走するのが当たり前。アンサンブルにならないんだからね。だから4人なら、まず麻雀卓を囲む。
 麻雀を始めることを止めはしないが、大学入学後の初麻雀で清老頭を海底摸月で上がったために、以後、誰も誘ってくれなくなったという悲しい過去を持つ私はお勧めしない。麻雀卓を使ったのは「小さい」からだ。必然的にメンバーの物理的距離は近くなる。

 これでスキャットで曲を始める。
「タラララーラララ」(ハーモニカのつもり)
「ズズズチャチャジャジャ」(ギターのつもり)
「ボボトトドド」(ベースのつもり)
「ズンダカダカダカ、ズンダカダカダカ」(ドラムのつもり)
 これで最後までイケると思う。終わった時、吹き出しながらも結構いい気分じゃないかな。自分たちのアンサンブルが成立する、この成功体験がバンドの出発点!
 ついでに言うと、口は一度に一つの音しか出せないから意識的/無意識的に出す音を簡略化せざるを得ない。しかしそれでも音楽は成立しているはず。やがてこれを楽器で行うことになるのだが、弾けるようになる前に、簡略化してでもきちんとできたと(じつはこの段階で既に耳コピしている)いう経験が得られたはず。だから口でやったことを楽器で置き換えるのがバンドの第一の、しかし明確な目標になる。それがメンバー間で共有される。  なんかうまくいきそうな気がしないかな?

 ただしこの時使う「良質なポップス」を何にするかが問題。
 各楽器がそれぞれ目立って、合わせるポイントもちゃんとある。簡略化しても音楽として成立し、抜群に曲がよくて気持ちいい。
 BeatlesのPlease Please Me以上のものを未だ見つけていないのだ。

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