ギターをピックで弾いていてよくある悩みに「弾いているうちにピックがずれる」というのがある。ピックに貼る滑り止めシールとか、滑り止めの付いたピックとか、穴をあけて滑りにくくしたピックとかもよく売られているので、結構な数の人間が持っている悩みに違いない。そういえば当方もたまに気になるので「ハンドボール専門店」に行って滑り止めを買ってきたことがある。通常松脂を使うところ、つまり手に付いたら専用クリーナーを使って洗わないととれないはずのところを、水で洗い流せば済むというスグレモノだ。神田のハンドボール用品専門店のレジで尋ねられた。「何に使われるのですか?」つまり「ハンドボール以外の滑り止め」にもよく使われて、いろんな人が買って行くということらしい。音楽ネタ、目次へ
ところが、これはほとんど使う必要がなかった。突然気にならなくなったのである。ピックがまるでずれなくなった。「ピックがずれる」という言い方、ちょっとあいまいなので再定義。ひょっとしてピックが平行にずれてゆく人もいるのかもしれないが、私の場合はつまんだ点を中心に「回転する」である。
いつの間にか回転して、ピックの先でなく斜面で弦をはじいている。その気になれば弦の中心をコインの端で弾くことができる程度に指先は器用なので何とかなるといえば何とかなるのだが、弾きにくいことには違いない。というわけで「いつの間にか回っている」と投げてしまうのではなく、観察して「いつ回るのか」を確認することにした。
観察は大事だ。原因を突き止めるのに1分とかからなかった。おすすめできない軽音楽バンドアニメ「バンドリ」の第4話に、主人公に対して既に弾ける人がギターを教える場面がある。アニメのスポンサーにESP学園がついているから、ESP学園で教えていることのダイジェストと見るのは妥当だろう。それによると、ピックは
人差し指を曲げて
ピックを置いて
(親指を)のせる
一連の動作によって持ちかたが定まるらしい。しかるに、これが間違いの元であった。
人差し指はやがて「伸びる」のである。私の場合は、指先の動きでニュアンスを付けたり、指先の力の入れ具合で音量や音色を変えたりするのだが、先ほどの持ち方ではうまくいかない。人差し指の側面を使ってピックをつまんでいるので(side pinchというらしい)人差し指の動きが著しく制限されるからだ。なので無意識のうちに人差し指の腹でピックをつまむように指を動かしてしまっていた。(pulp pinchという。)やってみればすぐにわかるが、このとき人差し指はさきほどよりも伸びる。
それ以外の原因でもありうる動作だ。よく言われることに「ピックを持つ指に力を入れないように」というのがある。当然のことながら、こう指導されると人差し指にも力を入れなくなる。そのとき「意識して曲げた人差し指」は楽になろうとして伸びる。
さらには速く弾き始めると遠心力で指は伸びる。特に「脱力」なんぞ言われた日には。では人差し指が伸びるとどういう現象が起こるか?やってみればすぐわかるがピックの先がネック方向に傾くのである。このとき既にピックは回りはじめていたわけだ。ここで弦に対するピックの左右の当たり方は非対象となっている。従って更に弦をはじくうちに弦からの反作用はピックの片側に集中し、当然ピックはそれを避けるべく動く〜つまり指がピックをつまんだ点を軸に回転する。
傾向が分かれば対策は簡単だ。はじめから「実際に弦を弾く指の形で」ピックを持てばよい。おい、ESPはちゃんとこの辺の軌道修正教えとんかいな。君んとこはそこらのプロギタリスト挫折者が食いつなぐために勝手に看板あげてるんと違うんやぞ。「ギター 専門学校」でググるとトップに出てくるところなんだ。だから問題にしとるんだ。
もっともESPにも言い分はあるだろう。「あんなしょーもないアニメになるなんて思ってもみなかった」。そりゃ山手線の全車両の扉に広告を貼り付けるほどの力の入れようだ。作りもいいと思ったのだろう。まさか「どこまでひどくなるんだ」という怖いもの見たさで視聴者を引き付ける惨状になるとは想定の範囲をワープしているだろう。
しかしESPの辛さ、ちゃんとわかっているのだよ。「机の上でピックが砕けている」という決してありえないシーンが挟まれたところで「ESPはもうこの作品知りません!」と宣言したのはきっちり受け止めた。でも君たちがしっかりできるところはしっかり教えようよ。底辺の拡大は長期的に見て御社の利益になるでしょ。最初から遠回りの手法を教えて、つまり十分な練習時間を費やさねば越えられない壁を設けて、ギターを弾けるようになりたい人をふるいにかけるのはやりすぎでないか?ただし以上のコト、文字で説明しても分かりにくいので、YOUTUBEにチュートリアル動画を作ってUPしました。
https://youtu.be/oOPi6SbSO1Y
これを見た人が増えるにしたがって、今後「ピックが回る」という悩みは急速に収束してゆくことを期待してます。ダウンとアップのピッキングの非対称性からある程度回ることは仕方ないのだけども、それであればチョコチョコっとピックを持ち直したので(あるいは中指で微調整して)収まる範囲でしょう。とはいえ、それでも回ってしまうことはある。そういう時は、ピックの中心線よりもややネック寄りつまんで「支点」とすればよいです。ピックが弦に当たる「力点」との関係がずれますのでものすごく回りにくくなります。(糸巻きの糸を引っ張ると、糸巻きは引っ張った方向に転がってくる、を連想するような力学的理由です。)