フランス革命の闘士

 数年前、パリに行った時の話。
 ナシオン広場に宿をとった我が夫婦は、カフェでサンドイッチを食していた。熱風で焼いたパンは今ひとつ美味しくないねえ、などと偉そうなことを言っていたとき、カフェのすぐ側に小さな車が止まった。
 中からは80才くらいのおばあさんが2人。1人は自力では歩けない様子。もう1人のおばあさんが支えて、よた、よた、とやってくる。
 カフェの人も心得たものですぐに助けに出てゆく。何人かに手伝われてようやく椅子に座りカフェオーレを一杯。でも長時間の外出はできないのだろう、またすぐに周りの人にやっとこやっとこ支えられ、車まで歩き、そして帰宅。

 カフェで一杯、というだけの社会のつながりを持つためにここまでするという気力に圧倒された。(80のばあさんが80のばあさんを支えて歩いているんだよ。しかも1月の寒い時期に。)この旅行で私が会った最も偉大な人間であった。

 このとき連想したのが、旅行のために付け焼き刃で勉強したフランス語会話の例文。ルイ16世と側近の会話。「これは反乱ですか?」「いえ、革命です。」
 なんで、反乱か革命かがすぐに判断できたのか実に疑問であったが、分かった。こういうばあさんが参加しているかどうかで区別できるのだ。

 血気盛んな若者が武器をとって騒いでいるだけであれば、それは反乱だ。鎮圧することもできるだろう。しかし、こんなばあさんまでが道にじっと座っていれば、これは革命だ。もうとどめることはできない。鎮圧するためには、国民を皆殺しにしなければならない。あのばあさん。フランス革命当時に生きていれば、間違いなく「自分も連れて行ってくれ」と言っただろう。「おばあさん、でも、なんかあっても助けてあげられないよ。」「いや、かまわない。だから連れて行ってくれ。」

 絶対王政を覆し、歴史を動かした立役者は、このような、1人で歩くこともできないばあさんだったわけだ。そして弱者とみられる人が参加したからこそ、1789年の蜂起は「フランス革命」となり、やがては「市民革命」と呼ばれることになったのだろう。

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