株価暴落予測の理論

 1987年10月19日月曜日、そう言えば株価が大暴落したことがあった。俗に言うブラックマンデーという奴である。

 その5日前、14日朝「株が暴落するぞ!もってる奴はみんな売れ!」と騒ぎ回ってひんしゅくを買った人間がいた。他ならぬ私である。
 14日の朝、偶然聞こえたラジオのこんなニュース。「NY証券取引所で株価が史上三番目の下げ幅を記録した」「米国国債金利が10%の大台に乗った」。これだけを聞けば「株から国債に資金シフトが起こりそうだ」と感じるのが普通であろう。むしろなぜ「19日までもったか」の方が不思議だ。

 相場情報の真っ只中にいる人には、逆にこういう兆候が見えにくいかもしれない。国債の金利上昇と株価の下落を「ダブル安」という枠に当てはめて解釈して「先行き不透明感の反映」と(わかったようなわからんような)要因に帰結させるかもしれない。(あるいは、ポジションが大きすぎて動かそうにも動かせない可能性もある。)
 確かに私は、ブラックマンデーを予測し、的中させたが、それはとてもお気楽な立場だからこそ出来たわけでもある。

 しかしながら、資金シフトの兆候を「先行き不透明感の表れ」と判断した人たちが正しかったわけではない。(事実、株式の大暴落は起こったわけだし。)でも場合によっては、「先行き不透明感」と判断して問題なかったのかもしれない。では、「先行き不透明感の現れ」と「暴落の兆候」は一体どこが違うのだろうか。

 外国為替決定の理論を勉強していたときに、こんなことを思いついた。いろいろと理論があるが、要するに次の式になるのではないかと。
(為替レート)=(あるべき水準)+(攪乱要因)+(ノイズ) ・・・(式1)
 で、あるべき水準として、仕方がないから例えば購買力平価をもってくる。

 更にすばらしい式に気がついた
(為替レート)=(今ある水準)+(変動要因)+(ノイズ) ・・・(式2)
 これだと、つかみどころのない「あるべき水準」をモデルから排除できる。

 もちろん、こういうものはギャグで考えているのだが、この二つの式の違いが大きなサジェッションとなった。冗談で某シェアトップ銀行常務のところ(非常勤講師とも言う)に持って行くと、ものすごくまじめな顔をされて曰く
「どちらも正しいのだが、この2つの式は別のことを言っている。そしてその2つを繋ぐものがない。」

 このお話を聞く限りでは、市場では「今ある水準」を基準にして相場が動いているのだが、突然「あるべき水準」を基準とした相場に移動する、という解釈が出来る。この移動が、冒頭の例ではブラックマンデーだったわけだ。もちろんオリジナルの式は為替相場をネタに考えたが、左辺の文言を入れ替えれば、あらゆる相場商品に適用できるとしての話だ。
 つまり、米国国債利回りの10%のせと平均株価の市場3番目の下げ幅を、式2の範囲で解釈すれば「先行き不透明感」となるし、式2から1への移行の兆候と考えれば「ブラックマンデー」となる。

 面白いことに、この考え、何年か経ってから妙なところで援軍を得た。ガルブレイスの経済小説「バブルの物語」である。ここでは「いまある水準」が「あるべき水準」からどの程度乖離しているかを「非合理的期待形成指数」とかいう名前で呼び、算出し、これが一定以上大きくなれば、式2から式1への移行が起こると主人公が判断し、儲けていた。

 さて、この相場には「あるべき水準」と「今ある水準」の2つの見方があるということを忘れ、「今ある水準」だけを見ると・・・。新規上場株の値付けを間違えるということになる。たとえばぷらっとホームmothers上場時、確か売り出しが800万で?1〜2週間で10分の1になったんだっけな。これは主幹事の日興証券が「あるべき水準」を計算し損なったと見るべきでしょう。というか「あるべき水準」という意識がなかったのでしょう。
 まあ言い訳はいろいろあろうがすごかった

 さて「非合理的期待形成指数」を実際に計算できれば金持ちになれると思う方がおられるかもしれませんが、実際にはあまり役に立ちません。だいたいにおいて非合理的期待によって株価は過大評価されるからです。空売りをする勇気があればいいのですが、とてもとても。そんなわけで私もブラックマンデーを予測したからといって儲かってはおりません。
 でも、今株価は過小評価されているのではないかなあ・・・と思っている。根拠は電力株の相場。北陸電力1800円?配当が50円とすると配当利回り2.78%になるけども、これは10年もの大口定期預金金利の10倍である。(まー一時は3%を軽く越えておりまして、そのときからは調整が進んでいますが。もう一回3%に乗れば買いですかねえ。)


(独り言)私の専門はあくまで経済学なんだけどなあ・・・でもコンピュータネタの方が読んでいる方から見ると専門家っぽく見えるんだろうなあ。(証券アナリスト協会検定会員 CMA#9062号)
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