収奪される大地

 無農薬&有機栽培。
 グルメでエコロジーな響きだ。無農薬で作った野菜はとても美味しい。薬を使うと、たとえそれが除草剤でも、野菜は堅くなってしまう。ちなみに冷蔵庫に入れると甘味が飛ぶ。農薬を使わないと形が悪くなり、虫食いも多く収量も減るが、自家消費分なら問題はない。(いつも美味しい野菜を作ってくださいましてありがとうございます。>お義父さま、お義母さま)

 しかし有機栽培はとても難しい。  畑を耕して野菜を収穫するということは土の中のリンや窒素やカリウムを畑から野菜を通して取り除くということである。その分はどこかから補給しなければならない。肥料を持ってくるのはそのためである。
 その肥料が含む栄養分を、科学的に合成する場合の問題はおいておくとして、有機肥料で補給するとすると次のような連環に思い当たる。肥料の元となる有機物は別の畑から持ってこられたものでその畑の有機物は減ったわけであり、そこに有機物を有機肥料で補給するとすると・・・。
 つまりどこかで野菜を食べた人間の排出した有機物を畑に戻してやらねばならない。これは牧草を育てて牛に食べさせ、排泄物を堆肥にするよりは面倒な話である。少なくとも、下水道を洗剤や化学薬品を流してもよいものと排泄物を専用に流すものに分けなければならない。そしてこれを田畑に戻す経路を確立しなければならない。
 むしろ汲み取り式便所とバキュームカーを復活させたほうがコスト的には割が合うであろう、、、で実際江戸時代はこれに近いことが行われていたわけだ。江戸から汚穢を農村に運んでいたというのは、、、聞いたことあるけど、、、本当なんだろうなあ。

 かくしてこれからのエコロジー運動の方向性が決まった。人間が歪めた自然界における有機物の循環を元に戻す。悪くない響きであろう。しかし、しかし、しかし、影響はさらに複雑である。有機物が大量に貿易されているからだ。
 つまり自然界における有機物の循環を回復しようとすれば汚穢もまた国境を超えさせねばならないということになる。農産物が国境を越えて輸入されているわけだから、有機物を国境を越えて戻さなければ循環が成立しない。
 具体的には、日本国内で回収した糞尿をタンカーに載せ、太平洋を越え、陸揚げされた後ロッキー山脈を越え、世界の穀倉地帯、プレーリーに撒かれることになる。。理屈は頭では分かってくれるだろう。しかし「大草原の小さな家」(大草原は原題ではプレーリー)のインガルス一家がいかに温厚でも心情的に許してはもらえまい。

 国境を越えて資源が輸送される以上、国境を越えてリサイクルを行う必要がある。もし本当にそうだとすると、これは悩ましい問題をはらむ。糞尿、とまではゆかずともリサイクルの「原料」たるゴミを輸送しなければならない。心情的に許されるのは屑鉄までであろう。これも磁石のおかげで低コストで不燃ゴミから分離できるからこそ何とかなるわけである。
 まあ、一度輸入したものだし、自国内でリサイクルすればよいではないか。原産国に戻す必要はない。そういえばそうなんだけどね。生産コストに差があるからということでどんどん生産基地が海外に移動している中、リサイクルを国内でやって、果たしてコストが釣り合うのか、、、そろばんが合うはずがないのです。こんな状況で家電リサイクル法が施行されても・・・。

社会問題ネタ、目次
ホーム