5メートルのボランティア

 ある、とても運の悪い日の帰り道、電車の乗り換え経路に白い杖をついた通勤者がいた。
 目の見えないおじさんを持つ私は他人のような気がせず、ひじを貸して、引っ張っていった。しかしさすがは毎日のように通っている道、階段も自動改札機もすたすたと抜けて行く。実際のところ補助の必要などないのだろう。まるで見えているようだ。
 おせっかいだったかな?と思いながらも電車に乗り込む。本人乗車口で多少戸惑っていたが無事に乗り込む。普通はここでほっとする。後は大丈夫だ。

 しかし、ここからが健常者との大きな違いだったのだ。電車に乗って運ばれるという点では目が見えようと見えまいと特に差異はない。しかし、この人には「シルバーシートが空いていることが見えない」のだ。それどころかつり革が空いていることも、手すりが空いていることも分からない。それゆえに、乗り込んで、二三歩歩いて、立ち止まり、駅につくまでそれっきりである。適度に混んでいる電車であるためすぐには気がつかなかったが,例えガラガラの電車でも事情は同じであろう。つまりこの人が最も補助を必要とするのは、乗り換えの数百メートルでも、階段でもなく、乗車口からシートまでの5メートルだったのだ。
 バリアフリーということで、歩道には点字タイルがついている。乗車口まで案内してくれる。しかし空いている席までの点字タイルは原理的に作りようがないのだ。いかにバリアフリーが進もうと、目の見えない当人の勘がよかろうと、この最後の5メートルには他人の補助がいる。
 それだけでも手を貸しましょう。このボランティアなら出来るでしょう。そしてこのボランティアなら当人を傷つけないでしょう。

 もっと大変なのは満員電車のターミナル駅かも。どどっと人が降りて、その駅で降りない人も押し出される。こうなると目の見えない人は自分の位置を特定できなくなってしまう。だから、たとえ席が空いていなくとも他人の乗り降りに巻き込まれなくて済むところまで誘導することも重要な意味を持っているかもしれません。

 ついでに一つ提案>鉄道会社様。
 点字タイルを伸ばしている乗車口、その乗車口がシルバーシートに近い乗車口かどうか確認して、そうでなければ修正していただけますか?あとは私たちが空いている座席まで案内しますから。

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