サマータイムの省エネ効果、実証さる

 いばらぎ県エコロジカルが丘市(地名は自治体が勝手に決めてもいいそうだが、それにしてもすごい地名だ)で地球温暖化防止のための二酸化炭素削減策として大規模な実験が行われたらしい。この夏、200程度の世帯でそれぞれ1週間、サマータイムに合わせた生活を行い、その前後の週と消費電力量を比較し、どの程度の省エネ効果があったか計ったということだそうだ。
 その結果発表をやるというので聞きに行った。詳細は別の報道に譲るとして2〜5%程度の節電効果があったらしい。よくもまあ200世帯も集めたなと思ったところ、教育委員会が音頭をとって市内の小中学校で夏休みの自由研究推奨テーマとしたということだ。なんと巧妙な、というのが感想である。教育委員長の最初の挨拶がおそろしい。

 地球温暖化が問題となり、二酸化炭素の削減が課題となっています。そのためにはサマータイムの導入が有効とされ、日本でもしばしば議論がされています。ところが既に導入した国を含め、温暖化ガスの削減にどの程度効果があるのかについて具体的なデータはありません。
 しかし、ある程度のデータなら、児童・生徒たちががんばればあつまるのではないか、というアイディアが出されました。試しに1週間、サマータイムに合わせた生活をしてみるというのです。普段は難しいかもしれませんが、夏休みの自由研究としてならできなくはない。各学校で2名だけやったとしても、市内全部を合わせればかなりの数になるはずだ。エネルギー消費量が変わったかどうかも、電気メーターを見れば分かる。
 市内の小中学校を通じて募ったところ、211名もの児童生徒が実験に参加してくれました。当初は、比較的時間が自由になる自営業の家や、早起きの農家に参加者が偏るかと危惧していましたが、市役所が協力してくれたこともあり公務員を中心にサラリーマンの家庭も幅広く参加してくれました。また削減された電力量が二酸化炭素に換算してどれくらいの量になるか、といったデータについては関東電力のご協力をいただきました。

 実験結果とその分析については、これから幾組かに分かれた児童生徒の代表が発表してくれます。またインターネットでも公開します。
 これが科学的に厳密な実験であるとは言い切れません。しかし、子どもたちにとっては大きな意味があります。世界的な問題ではあるが、世界中の誰もできなかった実験を、自分たちがやった。さらには自分一人ではなく、学校の枠を超えて多くの友達と協力した結果、世界で初めて結論が導き出せた。これは、直接実験に参加した児童生徒だけでなく、その周囲も含めて市内の学校全体が誇っていいことだと思います。実際ある中学校では、実験結果を見た生徒たちが、遅くまで議論に熱中し、下校させるのが大変だった、という話も聞いています。
 地球環境全体に関わる問題を解決するために、自分たちで実験を行い、意味のある結果がきちんと数字として出た。また、実験をやった一人一人の生の声も集まった。さらには保護者の感想も寄せられた。これは児童生徒を超えて地域全体の環境意識の高まりにもつながります。

 そして我々教育に携わるものにとっても大きな意味がありました。児童生徒に対し「自分たちは地球規模の問題の解決しようとしているんだ」という自覚と自信をつける貴重な機会を作ることができたことです。教育の地盤沈下が叫ばれ、自分のことしか考えない人間が増えていると言われる中、こういう機会を子どもたちに与えてゆくことが、我々にとっても大きな責任であるわけですから。

 こう言われては文句の言いようがないではないか。ハッキリ言って削減効果が出るのは当たり前なのだ。サマータイム実施中、小中学生は「今は省エネの実験をしているときだから」と普段にも増して節電を心がけるはずだ。それだけで相当の省エネ効果が出る。なんのかんのといって自分ちだけ1時間ずらすのは厳しいから、お盆を挟んだ1週間を実験期間と申告して、実は田舎に帰ってました、という家庭すらあるかもしれない。とても科学的な実験とは言えない。しかし「節電を心がけさせる」「地球規模の問題に関心を持たせ、また世界初のことをやっているんだという自信を持たせる」という教育効果を前面に打ち出され、小中学生の自由研究ですと念押しされれば文句を付けるわけにもいけない。
 しかし、サマータイムの効果を数値としてほしくてたまらない人たちはこの結果を「2006年夏にエコロジカルが丘市で行われた大規模な実験によると」と引用してくれるだろう。自治体のイメージアップには最高だ。エコロジカルが丘市という名称が実態を帯びたように感じる。その辺が分かって「自由研究」を聞きつけた市役所が実験に協力してくれたのだろう。

 教育委員長のスピーチから推測して、発案した奴は「教育効果」と「実験結果の引用を通じての自治体のイメージアップ」の両方を視野に入れている。ところが教育委員会は「教育効果」だけを押し出して何ら非難されることはないし、自治体はイメージアップの果実があたかも天からふってきたかのように手に入れられる。一方、サマータイムを導入したい人、したところとしては、これを「実験結果」と受け取って援護の材料としたいであろう。
 誰だ!こんな怜悧な計算ができる愉快犯は。

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