死後の印税受け取り期間は短くしないと困る話

 死後の著作権を50年にするとか70年にするとか騒いでいる人がいる。
 70年にすると、松本零士がやる気を出してキャプテン=ハーロック程度の名作をもう一つ確実に書いてくれるならそれでいいと思う。でも70年ならクリエーターとしてのモチベーションが出るけど、50年では無くなると公言するほど志の低い人だったんだと分かって、ちょっと残念。

 まあ、著作権というと紛らわしいので「遺族が印税を受け取る権利」と分かりやすく表現しよう。私が遺族なら、絶対に70年にしたくない。逆に3年程度に短くしてもらいたい。
 だって相続税が払えない。

 先祖が作った作品の印税は、どう考えても「相続財産」である。したがって「相続税」が課税される。ところが「相続税」は相続財産の評価額が確定しないと課税できない。
 つまり、遺族が印税を受け取り終わるまで、相続財産は確定しないのだ。

 つまり、相続税を払って、無事遺産を自由に処分できるようになるのは、50年後、ということになる。下手すると子供はもう死んでしまって遺産を受け取れない。
 ということは、印税受け取り権以外の遺産があっても、使いづらい、ということである。親の残した家に住むくらいはいいが、株式は動かしづらい、ということだ。でも実は家はうっぱらって運用にまわしたほうがいいこともあるのよ。

 死後、50年。ようやく遺産総額が確定しました。さあ、相続税を払います。死亡時点にさかのぼって、です。さて、いくらになっているでしょう。結構売れっ子だったとして相続税率を50%として。
 現在の法定利率が5%ということを考えると、なんと50年後に支払う相続税額は11倍に膨れ上がっているのです。つまり、遺産総額の5.5倍を税金として持っていかれることになります。まあ、5%以上の年利率で遺産を回せる自信があれば、それでもいいけどね。差額が収入になる。
 これがクリエーターたちの主張どおり70年になると、相続税額は30倍。遺産総額の15倍が税金です。相続税の時効が援用できるか、なんて考えちゃ駄目よ。
 とりあえず、遺産総額確定までの資産を運用する信託銀行の商品が流行りそうだ。

 かなり極端な結論が出たけれど、なんで死後受け取った印税が相続財産として、相続税の対象にならないか不思議は不思議なのです。公平性を考えれば上のようになってしまう。これが農地、とかなら課税繰り延べ、という優遇措置も周囲の環境を守るという大義名分があるんだろうが。お金を払わないと使えない著作物なんて、公共性ないからね。
 そもそも登録してお金を払って維持する必要のある「特許権」が15年で、印税受け取り権が50年ということ自体納得しがたい。ビジネスアイディア特許というのが認められ、特許と著作物の境界がぼやけている昨今ではなおさら。ということで「特許の保護期間を著作権に合わせて15年から50年に伸ばそう」というキャンペーンをやったら流行るはずだ。まあ日本は特許権割り負けするから流行らないかな。
 もし、法定利率を考えなくてよいとしても、死後50年、財産が処分できないと困るだろう。普通に使っても動産ならば滅失するかもしれない。それを「課税逃れのために証拠を隠滅した」ととられるのもかなわない。

 なるほど、タイムマシンが発明されても、タイムパラドックスというのがあるから先代の人に見せてはいけないというのはこういうことか。現在の著作権制度を知ったギリシャ悲劇の作家が「おれの脚本を無料で使っている!引用も勝手に行われている!著作権料を払え」と怒らないように。(そりゃ、彼らとしてみれば気分悪いだろう。)

 多分、うちの親の書いた本なんて、お金にならないから、こんなこと暢気に書けるんだけどね。あちこちで引用された「奥の深い表現」は印税もコメント料ももらってないはずだし。
 父親が亡くなったら。ちょっと書くかもしれない。そのときは引用者全員、あっ!と思ってください。見事にやられています。

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