ネット社会に司法の手

 弁護士「この横風の中、500m離れた被害者を狙撃して死に至らしめることは不可能である」
 裁判員「可能だ。有罪!」

 ゴルゴ13という劇画では(最近アニメにもなっているが)、「(ゴルゴ13の行なった)狙撃が可能であったと陪審員に納得させることは不可能だ」ということでゴルゴ13を解放するシーンが何度か描かれているが、逆にゴルゴ13に馴染んでいる日本人は「可能だ」と考えてしまう可能性は高い。
 銃ってなかなか当たらないものだ、ということを銃を使ったことが(普通)ないから分からない。一方、なじみのある劇画では不可能と思われる狙撃が当たり前のように成功している。ならば「可能かも」と思う可能性は高い。逆に米国人にはなかなか当たらないことが良く分かっているから「狙撃は不可能!無罪」となるのかもしれない。(えらそうに書いているが、当方実弾を発射したことは1回だけしかない。ゲームセンターで実弾が発射できるって、考えたらすごいなあ。)

 知らないことについて、陪審員が判断できないというのはその通りで、コンピュータ業界の人間であれば、例えば特許の有効無効を判断してもらわねばならない時になっても、理解してもらえるわけがない!とあきらめてしまうのが普通だろう。
 そんなわけで、もっともらしく陪審員を納得させる弁論術が、あちらの国では発達したわけだが、今後日本でも同様のことが起こりそうだ。

 今回の裁判員制度、それくらいの感想しかもっていなかったが、やはり頭の切れる奴はいるようだ。中小企業で「裁判員で人を抜かれると業務にさしさわりが出る」という問題、きっちり解決した奴がいる。
 ブログで「候補者に選ばれました」を公開したのがそれだ。
 言うまでも無く法律違反。こんな法律違反をする奴を裁判員に選ぶことはもちろん不適切。というわけで公開しちゃったやつは、裁判員にならなくて済むのだ。えらーい。
 裁判員に選ばれても、仕事を休む余裕などない、という意見を「御理解を」の一点張りで押さえつけてきた側にも後ろめたいところはあるはずで、一律に「法律違反だ」と騒ぐわけにもゆくまい。うまい手だ。

 そこまで考えたわけではなく、単に面白いネタができたとブログに書き込んだだけの人がいるかもしれないが、そういう人であれば今度は裁判の中身をネタにする可能性は十分にある。やはり裁判員に選んではならない。

 ということで「裁判員制度」ハナっから躓くことになった。
 個人が特定できる形でブログに公表してくれた(つまり意識して裁判員逃れをしてくれた)場合は、単にその人を裁判員に選ばない、というのはそれほど困難ではないが、あまり深く考えなかったためか、ある程度匿名性を残したまま書き込んでくれた人をはじくのは大変である。
 というわけでブログを提供しているプロバイダーを裁判所は調査しなくてはならない。
 今後、大規模にプロバイダーに対して裁判所の手が入るわけである。

 まさか裁判員制度がこういう方向でネット規制につながりかねないものになるとは想像できなかった。
 当然、プロバイダの負担は重くなる。そうでなくてもプロバイダは裁判所に介入されたく無かろうから裁判所に見つかる前になんとかしようとするだろう。
 法律違反をした人間のブログを閉鎖することはプロバイダに許されることだろうから、閉鎖してしまえばいいのだが、それはそれで手続きが大変。何よりクレームが怖い。となると、各プロバイダは「裁判員の候補者に選ばれました」の書き込みを自分のサーバから探して、片っ端から消す、という対処をしている最中かもしれん。ブログ閉鎖なら該当ディレクトリを外部からアクセス不能とするわけで、証拠隠滅にならないかもしれないが、書き込み削除だと証拠隠滅になるんじゃないかと、ちょっとだけ気を回している。

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