2008年度最大のヒットとなった金融商品のはずなのに、ニュースで見たことがない、なんで?と思って気がついた。残高がゼロだからだ。統計上は全く売れていないのだ。何らかの裏づけを取らねばならない報道機関であれば紹介するわけには行かない。でもそれが理由で知られていない、ではあまりに不憫だ。というわけで多少のいい加減さは許される個人サイトで取り上げることとする。社会問題ネタ、目次へ
株式投資信託の一種なのだ。ただし、注文は自由にできても解約は自由にできない。注文した日の最終で自動的に解約となる。従って日越えの残高はゼロ。統計に上がって来ない理由はここにある。
妙なスキームに聞こえても、商品名で納得してもらえるだろう。「デイトレ君」。デイトレーダーは、基本的に日中売買を繰り返し、その日のうちに手終う。つまり夜間の残高はゼロ。それゆえにデイトレーダーと呼ばれるのだが、この「日中の売買」をやってくれる投資信託なのである。
購入者は、まず証券会社と基本契約を結び、「今日はデイトレードをやるぞ」と思った日はWebから「今日はいくら買います」を申し込む。証券会社はその金額分、株を買い、その日のうちに売却する。
デイトレーダーは、日中端末に張り付いているのが普通だが、これができるのは主婦や自由業の人。サラリーマンには無理だから、それを代行すべく登場したのが投資信託「デイトレ君」である。ではなぜ爆発的にヒットしたか。簡単に儲かるからである。2008年度後半の株式市場の動きは単純であった。ニューヨークで株が上がると翌日日本でも株が上がり、下がれば下がる。つまりデイトレーダーにとっては天国みたいな日々だったのだ。しかも、株式市場が下がる日は自分も休める。一方、それが分かっているのに株式の売買を日中やる余裕がないサラリーマンは悔しい思いをしてきた。そのニーズを上手く組入れたのが投資信託デイトレくん。大ヒットとなるはずだ。
証券会社にも策士がいた。リターンを支払う基準を「日経平均連動」としたのだ。投資家が文句を言うはずもない。ポートフォリオの組み方によるリスクは証券会社が責任を持ちます、ということだ。逆に良心的に聞こえるだろう。ただ容易に気がつくことだが、投資家が「ニューヨークが上がれば買う」という行動をすると分かっていれば、ニューヨークの株価の動きと連動する率の大きい、たとえば輸出関連株を売買すれば、リターンは日経平均の動きよりも大きくなる。つまり差額分儲かるのだ。(だから厳密には投資信託とは言えない。投資信託の統計に計上されない理由はここにもありそうだ。)
デイトレ君のトレーダーは下がった日には暇なので、いろいろ調査ができる。ニューヨーク株価と東京株価の連動具合を個別銘柄まで分析する時間が十分にあるので、トレーダーのリターンは更に上がる。たまにニューヨークが下がった翌日に注文を入れる人がいたかもしれないが、そのときには内需オンリーの東京ディズニーランドの株でも買ったんだろう。証券会社も顧客も儲かるウハウハスキームだったのだが、ひとつだけ落とし穴があった。ちょっと欲張りすぎたのだ。「デイトレ君を買わない日、資金はMMFで運用します。」
ところがMMFは短期で解約すると手数料がかかる。当初は投資家も夢のように儲けていたので文句はなかったようだが、さすがにビッグ3が危なくなったあたりで気がついたようだ。
でも証券会社はその先まで考えていたのかな。こんなスキームがいつまでも続くわけがない。潮時というものがあるだろう。「デイトレ君」は株式投資を自分でする暇のないサラリーマンを取り込むというのが目的だったのだ。この辺で「MMFの運用をやめます」として「おお、顧客の声を聞いてくれる証券会社だ」という印象を与えた上で、他の地道な商品の購入を勧める。お客さんも「最近はリターンも減ってきたし」ということで乗り換えてくれているみたいだ。
顧客基盤の弱い、小規模ネット証券会社であるが、この商品のおかげで利益と顧客基盤拡充をともに達成した。これで対サラリーマンならではの商品がアレンジできれば、これは真の実力だろう。もっとも、この証券会社の社長、よくある話だが個人としての投資勘は良くないらしく、IT株バブルの感覚を引きずっているようだ。会社価値が極大化したところで、とっとと売却するつもりだったらしい。したがって次の手は考えていない。ところがファンド自体が景気後退で青息吐息。だれも買収してくれない。というわけで多すぎる顧客を抱えてにっちもさっちもいかなくなっているとか。