オリンピック招致の経済効果

 東京オリンピック2016、予想通り開催地には選ばれなかった。オリンピック種目にソフトボールが残るのであれば個人的には支持したんだけどね。上野監督に背中を叩かれてマウンドに上がるウチの姪というのを見たかったのだが、まあ北京のあとロンドンを挟んでまたアジアに、というのは考えにくい。かといってリオデジャネイロというのもなんだがね。ロンドンのように決定翌日にテロが起こらなくてよかった、くらいの感想しか公式にはいえない。
 石原都知事は、「プレゼンは圧倒的だったが、目に見えない力学が働いた」と負け惜しみ。へー、アジアに偏りすぎを調整する力が見えないのかこの人は。馬鹿だな。それにプレゼン一発で決まるのなら今までの招致活動は不要だったわけで、つまり税金の無駄遣いを自ら認めたわけで、十分辞任の理由になると思うのだが、それすらも見えないとは、少々あきれてしまった。誰か入れ知恵してやれよ。
 それにしても、直前のプレゼン、知事自身は評価しているようだがどこがよかったのだろう。少なくとも単にオリンピックに行きたいらしい中学生を突然引っ張り出してきたセンスは間違っている。これが後発発展途上国なら分かる。海外のオリンピックに行くお金はありません。でも自国なら10日も歩けば出場できます。だから自国でやってほしい。。。まあ、コペンハーゲンまで話をしに来た時点で、ナンセンスですが。
 であれば、高橋陽一(キャプテン翼)や井上雄彦(スラムダンク)を引っ張り出してきて「日本にはこれほどスポーツに燃える心があるんです」をアピールしたほうがはるかによかった。

 一方、鳩山首相は招致が不成功に終わることを承知で、首脳会談の機会を作るのに利用、なかなかやるぜ。財政は国が保証する、という空手形も見事なもの。

 まあ石原都知事が馬鹿なのは初めから分かっていたことで「会場は三方を海に囲まれた理想的な・・・」ここでもう駄目。陸路は一方向しかないから道が混むという当然の推論ができない。まあ最初はここまで馬鹿な人間が存在しうると思っていないから「なるほど、選手や観客を羽田空港から船で運ぶことを考えているのか。これを梃子に羽田空港の再国際化を推し進めるつもりだな」と想像してあげたんだが。

 なお、僕が都庁にいて、知事をフォローする役回りであれば、不本意ながら「招致活動の経済効果、PR効果」を試算する。決して無駄ではなかった、という意味を込めてね。
 この発想の根本にあるのは「支出がある限り、経済効果は算出できる」という、実はものすごく当たり前のことだ。でも支出と収入が表裏一体ということが忘れられている。こんどは大学時代のゼミの発表のホコリを払って書くことにする。
 ただし、大学時代に書いたのは合理的期待形成派の主張「財政政策は無意味である」をひっくり返そうと、同じ論理で「財政政策は無意味なのではない、あまりにも強力で実施される必要がない(財政政策という選択肢があると分かったところで、合理的経済人は財政政策をさせないために、自ら需要の創出にはしる)」というものだったが。

 発想はいつもの通りシンプルだ。次の主張を認識するところから始まる。
 景気が悪いのは、需要が少ないからである。ならば政府が支出をすれば、その分需要が増えて景気が回復する。政府がお金を使うと受け取った先はそれを又使うから、どんどん需要が増え、景気はさらに回復する。
 ケインズはここまで単純ではない。ただし、一般にはこのように考えられている。そんなわけで「阪神優勝の経済効果」なんてのが計算される。阪神が優勝すると大阪梅田の飲み屋で乾杯するから、需要が増えて景気がよくなるんだそうだ。多少はそういうこともあるかもしれないが、実際に阪神ファンの収入が増えるわけではないから、他の支出を切り詰めて甲子園に通うことになる。つまり需要全体はさほど増えていない。それ以前に、甲子園近辺の飲み屋の売上は減る(らしい)。適当に負けてくれたほうが、周辺の飲み屋で単独でやけ酒をあおる人がいるので、売上は増えるそうだ。勝つと大阪・神戸の繁華街まで集団で客が移動するので売上は減るとか。
 つまり、巷で計算されている経済効果とは「支出の移転」のことを言っているに過ぎない。しかしながら、どこかで支出があればそこだけを切り取って、例えば「地デジの経済効果、270兆円」と宣伝することが慣習になっている。別にGDPが270兆円増えるわけではない。そんなわけで、オリンピック招致のために支出したのなら、適当に乗数効果を見込んで「経済効果○兆円」とできるわけだ。ついでに「世界的に東京のイメージが上がった」とでも副次的効果を付け加えれば完成。マスコミも文句は言わない。地デジの経済効果、なんて言ってるわけだからね。どこのシンクタンクだっけ、年内に発表した経済効果の合計を出すとGDP増加額を超えていたというの。

 つまり、政府の景気刺激策も税金や国債で吸い上げたお金を支出しているわけだから、そのままで「景気刺激」と言える訳ではない。たしかに国民が貯蓄して乗数効果を減殺する分を活かします、とは言えるかもしれないが、じゃあ貯蓄が投資に回ってないかというと、そうでもない。(少なくとも国債を買っている。ケインズが前提とした社会とは違っているんだろう。)
 それを「景気刺激策」と言い張っている以上、オリンピック招致活動も経済効果になるはずだ。もちろん、使わないダムを作っても景気刺激だし(これはケインズも皮肉っぽい笑いを見せながらだろうが認めるだろう)、天下り官僚に常識外の給与と退職金を払っても景気刺激になる。なあに、国民を代表して定額給付金をまとめて受け取っていた人が今までもいたということだ。

 「ちがうだろ!」今いわなければならないのはこれだ。使っただけでは経済政策にはならない。少なくとも国債の金利を払えるほど経済成長をもたらすことは出来ない。じゃあどうするか。
 この辺がオバマさんにはあった。「環境にやさしい新産業を育成するのに投資」、本当にやっているかどうかは別として、次世代産業の育成、分かりやすい。オリンピックの招致だって、海外から観光客が来るわけだから効果はあるだろう。(今回はお互い失敗したが。)そんなわけで民主党の児童手当分からんでもない。が、児童手当が給食費も払わない馬鹿親の遊興費に消えないためにはどうすればよいか、その発想がない。国家戦略局が考えないといけないのは、実はこういうことではないか?
 それこそ先ほどあげたタイガース優勝の経済効果はマイナスなのかもしれない。生産財に投資されるはずだった資金が優勝グッズというその場限りのものに変わったかもしれないから。つまり(拡大)再生産の流れを止める効果が恐れられるのだ。タイガースはまだ「新たな消費財」生産につながるからいいとしても、「オリンピック招致活動」となるとこれはマイナスだった、と言っていいはずなのだ。少なくともかなりの部分が海外に流れているからその分はGDP上昇から脱漏する。

 自分としては農家の戸別保証、の代わりに「農地の警備」をやってほしいのだが。いやあ、組織的に作物を盗んでいく人いますからねえ。この人たちがプロである根拠は、根こそぎ持ってゆくと次の年、農家が働かなくなるので、多少は残す、こと。見張っていて文句を言うと、すぐに農地に塩が撒かれる、ので個人では対処不可能。こういう連中を根絶しない限り、「所得保証」とすると逆に耕作放棄地が増えると思うんですがね。

社会問題ネタ、目次
ホーム