物議を醸し出すほどの手抜きな夏休み自由研究

 うちのガキが夏休みの宿題の追い込みをしている。
 デジカメで写真を撮って、印刷して貼っている。
 それは「手抜きである」といつ教えようか。いや「手抜き」というのは分かっていると思う。「副作用があるよ」といつ教えよう。

 意見はあるかもしれないが、こういうときはスケッチをするのが王道である。
 私はスケッチ、デッサンともまあまあうまい。ニョーボも同様である。だから子どもも普通よりはましなはずなんだが・・・、いや最近やっと分かったんだわ。スケッチしておく経験の大切さ。

 私は長い間、フレミングの偉大さが分からなかった。ペニシリンという奇跡の薬を発見したという功績は認めるにしても。シャーレのなかでカビのまわりに菌のコロニーが無いことを見つけただけだろ?気がついてあたりまえじゃない。
 当たり前じゃないことを知ったのは、同じ現象を発見した日本人がいたことを読んで、である。ただしこんな風に推測している「これはアオカビが早く栄養を吸収するので、菌が生育できないのだろう。」
 寒天培養地は表面にしか栄養が無いらしい・・・なわけないだろ。だとするとアオカビが栄養を早く吸収するとしても、ブドウ球菌が生育できないってことはないだろう、と反論が反射的に組み立てられ、この考察は見当ハズレ!と自己批判しなければならないのだが、どうやら「カビが菌を殺す」という好戦的な発想はそれなりに独創性のあるものということが分かった。

 で、最近になって分かったのだが、培養に失敗したシャーレ〜つまり「どうでもいいもの」をそれなりに観察して「あれ、カビの周りに細菌がいないぞ」と気がつく注意力はどうやらそれなりにたいしたものらしい。デジカメで写真をとって「自由研究」とやっているうちは、そういう些細なことに気がつく神経はそれなりにすら発達しませんな。まめにスケッチする習慣があって、「培養には失敗したけど、これも勉強だと思ってスケッチしておくか」という謙虚さあれば、凡人でも気がつくかもしれない。フレミングはまじめな凡人だったのかも。このまじめさと謙虚さが奇跡の薬を産み、数多くの人命を救ったわけだ。・・・ということは培養に失敗したシャーレを捨てていた大多数の科学者はまじめじゃなかったのかな。ここで疑問が生ずる。ちゃんと消毒してから捨ててくれたのだろうか。

 ただしこれは自然科学については当てはまっても、コンピュータについては当てはまらないものらしい。例えば視力が悪いくせに、コンピュータのランプのつき方がいつもと違うことだけは滅茶苦茶良く気がつく私であるが、コンピュータをスケッチしたことは一度も無い。バビル2世の背景など間違っても描けない。なわけで、抽象概念使いまくりになる。(メルロ=ポンティやハイデッガーは抽象概念使いまくりでも、普通の人間が「抽象」と感じることに対して、あたかも手で触れることが出来るかのような実感を持っていたと思うが、それはおいといて。)
 かくして、ガキの自由研究(モドキ)にもどかしいものを感じた当方は、パソコンだけで出来る、タイムリーで、独創性モドキがあって、きわめて数値化がすすんでいるように見える自由研究を編み出した。これなら「きちんとスケッチしろ」と腹の中でぶつくさ言わずに済む。当然却下されたが(ニョーボに)、廃物利用でネタにする。

 ようするに「夏休み期間の最高気温と電力消費量」の関係を分析するのである。
 まずここから、電力の使用状況をダウンロードする。で、MS-Excelシートに貼り付ける。1時間毎の使用量が出ているから、ここから各日の最大消費電力を求めようか。目でチェックしても十分なんだが、少しかっこよくVBAなんか使ってみる。自由研究のレポートにプログラムソースなんかくっついていたりするといかにも広がりがあるように思えるじゃない。後のことも考えてこんなものを作ってみた。ようするに各日付の最大値の行に印をつけるだけなんだが、それがあればSORTないしフィルタで編集するのは訳無いよね。
 ゴミが残るのであまりきれいではないが、まあこんな感じだ。

Dim i As Integer
Dim 消費電力 As Integer
Dim 日付 As Date
Dim 最大消費電力記録行 As Integer

日付 = 0
シート最下行 = ActiveSheet.Cells.SpecialCells(xlLastCell).Row
最大消費電力記録行 = シート最下行 + 1

For i = 1 To シート最下行 + 1
    If 日付 <> Cells(i, 1).Value Then
        Cells(最大消費電力記録行, 4).Value = "*"
        日付 = Cells(i, 1).Value
        消費電力 = 0
        最大消費電力記録行 = シート最下行 + 1
    End If

    If 消費電力 < Cells(i, 3).Value Then
        消費電力 = Cells(i, 3).Value
        最大消費電力記録行 = i
    Else
    End If

Next i
 こっちで過去の気温をみる。同じように各日の最高気温を拾ってこよう。(その気になれば、電力消費量/気温とも1時間毎に取れるのだが、話がややこしくなるので最高気温と最大消費電力でいいや。(最大消費電力を出した時刻の気温で計算したいのだが、まあこの辺の割り切りが各自の「個性」である。)

 しかし、表を作って、グラフを出して、標準偏差を求めて、回帰直線で近似して、まとめてみたとしても、よく考えると「表やグラフがきれいに作れるようになったんだ、VBAまで使ってるの、エクセルになれたねえ」ということで終わりかねない。
 それでも、これだけで推測できることも多い。気温が高くなると電力消費量が増える。ああ、やはり冷房が電力を食っているんだな。よく考えると休日と平日を一緒に計算するのは望ましくない。土日とお盆期間を切り出して、分けて計算する。すると最高気温と最大電力消費量の相関係数は、休日の方が高くなる。なるほど、工場が動いている日は工業用電力が気温と無関係に消費される。それで工場が動いてない休日の方が相関係数が高くなるんだな。

 ここで終わらせてもいいのだが、更にそれっぽい結論を出すためには「比較」するのが手っ取り早い。というわけで2010年の相当期間(つまり去年の夏休み)と比較する。さっきVBAを作ったのはこのためである。同じ処理を去年のデータについても行うから。

 ところが!予想と大幅に違うものが出て来てしまった。
 なんと、最高気温と最大電力消費量の相関係数は2011年の方が高い。つまり、今年はみなさんクーラーを我慢しようと言いながら、実は暑くなるとキッチリつけていた、ということになる。つまり電力消費量が減ったのは、鉄道や工場、駅や商店といったところの「気温に関係なく、電力を消費するところが節電しているから」ということが推測できる。休日の相関係数と平日の相関係数の差が、2010年では0.031であったのが、2011年は0.55と増加していることからもそれがいえる。要するに会社休みで家庭で電力消費!のときの方が気温と消費電力の相関が強いのだ。これはご家庭では暑くなると今までどおり冷房を入れていたことを意味している。
 馬鹿正直に我慢して熱中症になった方、あなた、損してます。(一応予想される反論に応えておくと、2010年は最高気温が33度を越えたあたりで電力消費量が頭打ちになるんだわ。つまりそれ以上上がってもみんな我慢していたということ。)
 で、たしか工場は休日稼動にシフトなんて言ってなかった?ホントかな?最大消費電力の平均を平日と休日で比べると・・・検証できなくもない。

 私たちは今夏の電力不足を乗り切ったが、それは企業、とりわけ工場部門や商店を含む町の照明での節電のおかげであって、各家庭でクーラーを我慢したからではないということは結論としてよーく分かった。

 それともう一つ、おーきな要因がある。夏休み中の平均最高気温の差、なんと2.4℃である。もちろん今年の方が低い。
 東京電力や民主党の皆さんは「運が悪かった」と思っているだろう。東電はともかく、民主党については否定しないが、それでも「夏の気温がそんなに上がらなかった」という幸運については、喜んでもいいと思うがどうだろう。

 居ながらにして入手できる資料で、タイムリーでオリジナリティがあって、それっぽいものを作る試み。今回はなかなかうまく行った。だが「キモ」はこの数字の羅列をアレンジして何かを読み取る思考法にある。頭の中では仮説と検証がものすごい勢いで渦巻いていたのだ。そんなかから一番面白そうなものを取り上げて書き上げた。
 却下されたもののこの推論技法、子どもに伝えたかったな、と思って少々残念に思った。

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