いかにして私はガキの自由研究に突っ込みどころを織り込んだか

 きちんと自覚しているのだ。
「なんで東京電力管内全域の電力消費と比較するのに、住んでいる市の、つまり局地的な気温を使っているのだ。」
 分かりやすい突っ込みどころである。最初は「東京」の気温と比較していたのだ。が、これではスルーする奴が出てくる。きっちりと気がついて欲しいので住んでいるところに変えたのだ。

 もし、適切な教師がいるのであれば、多分親の手がそーとー入っているだろーなー、と思いながらも、この自由研究を取り上げてクラス全員でブラシュアップをはかるだろう。
 では、どこの気温と比較するのが適当か・・・。
 ここで加重平均という考え方を教え込む。多分各都道府県の県庁所在地の気温を県別の人口で加重平均して「東京電力管内の」平均気温として算出することに落ち着くと思う。
 もちろん「昼間人口」とか「工業生産額」といったもので加重平均するという意見も出てくるだろう。東京電力の大口契約と一般家庭の消費電力量の比をとって、なんてのも考えられなくは無いが、いくら僕でも中一にそこまでは酷だと思っている。
 というわけで、クラスが各班に分かれて、各都道府県について人口と気温を調べて打ち込む。それをMS-Excelシートで結合、すぐに「関東地方の平均気温」というものが出てくるだろう。歓声が上がると思うぜ。それはパソコンだとこれだけの集計が一瞬で終わることに感動しての歓声ではない。自分たちが、今までに無い概念を作り出したこと、社会で切羽詰っている問題を分析するに使える概念を作り出したことに対する歓声だ。この経験ってものすごく貴重だと思うんだけど。

 ここで、みなさん「余りクーラーを節約してるのではない」という推論を改めて見せ付けられて、反発すると思うんだ。「そんなはずがない。ウチでは結構我慢した。」
 さて、議論百出。ここは僕でも予測不可能。でもみんな真剣になると思うよ。で、ころあいを見て「あれ、熱中症の患者数、7月が多いけど8月はそうでもないよ。7月はクーラーを我慢してたけど8月は必要とあればつけるようになったとか、そういった差は無いかなあ」くらいを入れる。そうなんだ。「夏休みの宿題」だから7月20日からしか計算していないんだ。

 というわけで皆さん今度は7月1日からのデータを入力し始める。最高気温の折れ線グラフを書き出す奴がいるかもしれない。かならずしも最大消費電力が最高気温を記録した時刻と一致して無いことに気がついて仮説を立てる奴がいるかもしれない。

 さあ、どうなるだろ。うちのガキの結論は「電力不足を乗り切ったのは(企業セクタの努力であって)個人ではない」だった。それに反発して調査を始めたクラスのみんなの結論は?

 「自由研究」。定番の夏休みの宿題だが、モチベーション十分で実施した奴を(自分を含めて)知らない。が、だれかの説が気に入らなくて、それをひっくり返すモチベーションは比較的醸成しやすいと思う。そこで資料採取にインターネットを使う。集計と計算にパソコンを使う。頭を使うのは、仮説と推論。いいバランスを教えることになると思うがなあ。

 そこまで計算してたのかって?もちろん。だって僕はマスコミ全部を煙に巻いたあの人の子だよ。
 多分、並の先生は想像もできないだろうなあと分かってたけどね。で、うちのガキの結論がひっくり返ったとき、うちのガキがいじめに会うかどうかまでは正直、考えなかったけどね。でも、最後みんなで出した結論にみなが納得したとすれば、うちのガキはヒロインだ。
「よーし、文化祭、うちのクラスはこれを発表するぞ!」

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