トランプさんがどうしてあそこまで雇用にこだわるのか。社会問題ネタ、目次へ
ツィッターひとつで数兆円の投資を国内に呼び込むのだから大したやり手と思うが、それにしても「なりふりかまわない」。
当然、例えばトヨタとしても「合衆国内に工場作るから国内資本並みの補助金を出せ」とか交渉するだろうが、その辺は彼らの仕事。でもとっとと「1兆円投資する」なんて発表しちゃったってことは事前ネゴの時間はとってないってことだよね。大丈夫かしら。
しかし帝王学を極めた豊田社長にとっては当然の仕事であろう。心配する必要はない。なのでこっちとしては純粋に「なぜ雇用にこだわるか」を考えてみた。
よく言われるようにトランプ氏は「企業経営者」である。政治家の経験はない。企業も国家も同じようなものだと考えているのだろうが、国家にあって企業にないものがある。それが「失業者」である。発令待ち、といった摩擦的失業者に相当する人は企業にもいるだろうが、人員過剰での失業者というのはありえない。トランプ氏得意の「クビだ!」でおしまいである。企業「経営」手法を国家「運営」に持ち込もうとしたとき、トランプ氏にとっての最大の不安要因はこの「失業者」なのではなかろうか。となると実務家のトランプ氏はシンプルで有効な施策をとろうとする。「失業者を無くせばよい」。というわけで雇用者との「交渉」を開始したわけだ。この施策にはもう一つの副産物がある。
市場経済を前提とすれば賃金は有効求人倍率(数)で決定される。最低賃金以上の完全雇用が達成されるならこの市場原理にゆだねておけば「分配」の問題を直視する必要が無くなる。つまり「分配」を解決する操作目標として「有効求人倍率を1倍以上」をキープしておけばよいということにすれば、バリバリの資本家階級たるトランプ氏の立場からは問題としたくない「富の偏在」から目を逸らすことができる。
有効求人倍率が上がれば、労働者への分配が増え、下がれば減る。ただし完全雇用は満たされているので社会福祉制度に手を付ける必要はない。「雇用」を「分配」に対する一種のスタビライザーとして使おうとしているのではなかろうか。(賃金の上昇を抑えるために雇用を減らすことを「有効求人倍率1倍以上」を隠れ蓑に黙認すれば、労働者階級への分配は自然に抑えられることになる。)この副産物まではひょっとしてトランプさん考えてないかもしれない。ようするに「働き口があればいいんだろ」くらいは考えているかもしれないが「分配は雇用市場によって調整される。政府の役割は完全雇用を保証することである」とまでは政策としてまとめてないかも。
なお、フーバー研究所からのオファーは今のところ当方に届いておりません。