嫌いの敵に味方した、特許紛争解決案

 あまり読んでいて気持ちの良いものではない。ファーストリテイリング(以下有名ブランド名の「ユニクロ」と表記)とアスタリスク社の特許紛争である。

 ダイヤモンドオンラインの記事への感想、まずは「どっちもどっち」である。
 問題の特許は、RFIDを使用する際に電波が飛んでいかないように周りを囲む、ただし買い物かごが出し入れしやすいように上は開けておく、という単純なものだ。アスタリスク社が出願し、成立している。
 記者も言っているが「こんなんで特許になるの?」という気持ちで半ば呆れている。というのはRFID読み取りの際は、電波が漏れないように周りを囲む、というのは周知の事実としてあるわけで、この会社が発明、つまり《「自然法則を利用した技術的思想の創作」のうち、高度なもの》と主張しているのは「唐突に上だけ開ける」だけのことだからだ。
 もしアスタリスク社が物を出し入れしやすいように、何か考えていたなら、つまり「上(一つの面)を開けてもRFIDの電波がそこから外に出ないような仕組みを作りだした」なら特許といえるが、出願情報を見る限り、箱の素材や形状、さらにはアンテナの構造や取り付け方について何一つ工夫しているわけではないのである。それどころか具体的に電波をシールド(特許本文中では反射と吸収と書いている)する方法についてすら何も書いていない。あなた何か発明したの?(でもこれで通じるのが「特許というものらしい」←ここ大事。慣習というものがあることを忘れないでね。)

 ユニクロに行ってみると(すべての店ではないが)確かに上が開いて商品を出し入れしやすいセルフレジが置いてある。
 アスタリスク社はこれが自社の特許を侵害したものだから差し止めをと訴訟を起こしている。一方ユニクロは「ライセンス料をゼロにしろ」と言いながらも特許無効の訴えを起こしているようだ。
 これだけだったらユニクロの運が悪かった、で終わるのだが、問題を複雑にしているのは、以前からこの両社は取引関係があり、このレジスターについて話をしたことがあり、少なくとも話を始めた段階では特許は成立していなかったことである。
 ダイヤモンドの記事ではアスタリスク社の社長が「特許を出願していることはユニクロに伝えた」旨書いてあるが、片方の言い分のみ記載していることは割り引いて考えなければならない。ひょっとしたら特許出願以前にユニクロの社員が「上だけ開けたセルフレジ、作れませんかねえ」とか「どうせなら買い物かごを入れられる大きさにしてくださいよ」とか話している可能性もあるわけだ。だとすれば「ライセンス料は大負けに負けてよ」と主張する気持ちは分かるし、それで相手が折れない場合は「そもそもこれが特許かあ?」と無効の訴訟を起こしたくもなるだろう。
 その辺が分からないので読んでいてただ気分が悪くなるのだ。だからなんとか終わってほしい。

 そこで電車の中の暇な時間に考えてみた。この特許に触れずに、同じ形状のものを作ることはできまいか。それが実現すればこの争いは終わる。RFIDを読み取るアンテナを二つにして角度をつけ、電波に指向性を持たせて・・・商品の出し入れ時に引っかからないように・・・私は結構真面目に物事を考える人間らしい。ちゃんと「上を開けても電波が漏れない」方法を試行錯誤していた。なんとかなるかな、とまとまってきた途端、唐突に特許の回避策を思いついて、でも話がごちゃごちゃしてきたので・・・翌朝になるとすっきりまとまった。

 特許庁のデータベースを検索して特許の詳細を読んだところ、特許本体は
特許6541143
【発明の名称】読取装置及び情報提供システム
であるが、これに付随した特許公開情報2019-125396を読んで「あれ?」っとなった。上を開けた目的は「商品(買い物かごも含む)が出し入れしやすいように」という明け透けなものらしい。
 さらに特許内容をよく読むと「上を開ける」ことしか書いていない。つまり手前を開ければ特許に抵触しないし、二面を開ければ特許に抵触しない。(開けた二面に上が含まれていれば特許だ、と主張したいかもしれないが、そうすれば六面全部開いても特許が成立することになり、つまりシールド効果は全くなくなるので無意味になる。だから一面を省くしか発明にならない。←というかそもそも発明とは言えない。)

 だったらこうしよう。RFIDの電波が漏れて外部の機械に悪影響を及ぼすことを防ぐ。こういう目的から演繹すればよい。さらには「複数面」を開けてしまえば特許には抵触しない。つまり「うしろを開けるが壁につける」「支払い機能を持つ機器はRFIDの電波を受けても誤動作することはないと確かめられたので、シールドしない」。これでアスタリスク社の特許は回避できる。
 念のため、特許を出願するのもよさそうだ。特許公開情報に書く発明品の目的は「RFID読み取りの電磁波が外部に干渉する(この表現大事)ことを防止する」にする。それを実現するための発明としては「干渉の可能性のある方向に漏れる電波を反射もしくは吸収する」でよい。成立すれば万々歳だし、成立しなければアスタリスク社の特許無効の強力な理由になる。もちろん、弁理士さんや弁護士さんの意見を聞かなければならないし、特許が成立したところでアスタリスク社とクロスライセンス契約を結ぶかどうかといったユニクロの戦術の取り方の問題もある。

 ライセンス料を値切る&特許に異議を唱えるは多分この手のことでもめた時の王道なのだろうが、特許に抵触しない特許をつくるのも定番であろう。
 ここでのポイントはアスタリスク社の意図が「RFID読み取り装置の誤動作を防ぐ」という旧態依然のものに「ただし上にあるものは気にしません」を追加したものであることに対して「RFID読み取り装置の出す電磁波の外部干渉を防ぐ」と目的を入れ替えた、というか明確化したこと。
 そしてその実現手段として「上面を除く全面をシールドする」から「干渉する可能性がある方向をシールドする」を選んだわけだ。だからレジ部分のある左は必ずしもシールドしなくてよい。アンテナの指向性が十分片方に対して強ければ、底のシールドは不要かもしれないし、壁につければ後ろも不要となる。(放熱とメンテナンスのために後ろにスペースを確保する必要はあると思うが。)
 ここで指向性の強いアンテナとの組み合わせでシールドを不要とする、というところまで詰めることができれば、ずいぶんと特許にふさわしくなるなあ。

 アスタリスク社の「特許」が特許と思えない理由は「上を開けても誤動作しない」ことを特に検証した形跡がなかったことなのよ。これが安易な思い付き以外の何だというの。
 これに対して私が考えた理由である「電磁波がお客様に悪影響を及ぼす可能性を防ぐため」であれば、お客様第一の姿勢が見て取れるでしょ。電磁波の悪影響、実際にあるかもしれないよ。昔、航空会社は「たまごっち」の出す電波が飛行機の景気に悪影響を及ぼすことを警戒して、機内での使用を禁止したのですよ。ペースメーカーに影響を与えない出力の電波ですら、大型旅客機に不具合をもたらす可能性があるということだ。

 アスタリスク社の社長が訴訟に踏み切った理由は、上記の記事によると「9カ月も話し合ってきて、最後に『ゼロ円でライセンス提供してください』と言われた。それはないだろうと、私の腹は決まりました」だそうだが、これについては言わせてほしい。確かにほめられたことではないが「それが大企業というものだ。」先ほど書いた「それが特許というものだ」と同じような次元で理解してほしい。

 まあ社長さんの気持ちもわからなくはない。代わりに私の気持ちもわかってくれるといいのだが耳を貸してくれるかな。カチンと来たのは特許公開情報に(レジの)ヒューマンインターフェイスとして「スマホ、タブレット」と限定して書いていたことなのよ。ところが特許本体にその記述がない。ちょっとー、あなた特許公開情報を読む人だましてない?(ひょっとしてユニクロ社員との会話の中でもうまいこと言って油断させてない?って邪推したくなったよ。)
 さらにはスマホ、タブレットを持ってきて「ボクってイカしてる」感を出しているように見えたのが鼻についた。結局はそういうことだ。アイディアというのは基本的に人類の財産だ。特許はその公開を促進するためにある。これに対してアイディア以前の思い付きであるにもかかわらず自分の資産として囲い込もうというその態度が気に入らないわけなのよ。

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