人材派遣の構造改革

 「派遣社員」という制度は生産性の向上を阻害する。

 派遣で来ている人が、画面に向かってテストユーザーの登録をせっせとやっていた。エクセルシートから一項目ずつCopy&Pasteである。個人的にも雑談する程度に仲良しだったので、そこの課長に許可をもらって、エクセルシートのデータをささっと抽出、んでもって自作のフリーソフト「MyHope」を使ってあっさりと行う方法を教えた。
 しかしながらすぐに元のやり方に戻していた。どこか使いにくいところがある?と尋ねると「自分が仕事しているという感覚がしない」のだそうだ。どうしても定型的な処理を頼まれがちな派遣社員としては、これ以上の定型化というか簡素化は人の性として受け入れがたいのかもしれない。

 逆に雇う側の事情というのもある。これはバイトなのだが、産休予定の人がいるというので穴埋めを確保する、ときの例を聞いた。一通りの作業を教えた後「今週いっぱいかかると思うけど」とある程度まとまった仕事を与えられたそうな。そのバイト、アドビ、イラストレーターの機能を使えば省力化できることに気が付き、その日の午後に終わらせてしまったとか。この調子で当初予定していた契約期間3か月の仕事を3日で終わらせたそうだ。
 さて、どうなったか?一週間でクビである。会社が利益を追求するだけでよければ、むしろその産休に入る人を切り捨ててでもバイトを雇うべきだろう。しかし現実問題として、正社員とバイト、どちらを切る?当然、バイトである。ここにおいて「正社員以上の生産性をあげるわけにはいかない」という事情が観測された。(後で聞いた話だが、職務を言われた通り忠実に果たすバイトを雇いなおしたらしい。)

 このように生産性をあげるという動きは働く側からも雇う側からも出てこないという構造的問題を派遣社員という制度は内包している。
 ここでこの新型コロナ騒ぎである。不要不急の業務がなくなる中、派遣社員はその使い勝手の良さ、つまり「切りやすい」という要素を活用されているとか。仕方がないといえば仕方がない。派遣を使ったほうが生産性が上がる、といった長所がないのだから、労働力の調整弁として利用されるのも、現状ではやむを得ない。

 これは私みたいなのが派遣社員として働くことになっても事情は同じだろう。役割分担表のメンテナンスを任されたら、とーっても楽にメンテするツールを作って処理する。浮いた時間に忙しそうに見せるなんて技は持ち合わせていないので。真っ先に切られそうだ。でも切っちゃう前に猫なで声を聞きそうな気がする。「そのツール、置いてってくれない?」嫌と言いにくいし、たとえそう言っても借り物のPCである限りハードディスクをあさられれば持っていかれる。ああ、やっぱり生産性を向上させると自分で自分の首を絞める結果となるのだ。

 となると「構造改革」が必要になる。派遣を使ったからこそ生産性があがる、ようにするわけだ。
 とりあえず考えたのは「細かい仕事単位に請負契約を結ぶ」である。代行入力で1件、組織図メンテナンスで1件。それを派遣会社本体で「センター処理」し、還元するというものだ。おそらくはある会社が依頼した仕事は同種のものは、すでに他の会社からもお願いされており、そこで蓄積されているノウハウを使えば、多分、今までよりも早く終わる。
 はっきり言おう、私みたいなのが仕事を簡単にするツールを作って、あるいは冒頭に書いた有能なバイトが作った手順を使って、多くの会社の仕事を処理しても誰も難色を示さなくなるということだ。生産性向上施策が素直に実行されるようになる、ということだ。

 以前はこんなことを考えてもまず受け入れられることはなかったろう。しかし、コロナである。派遣社員はなかなか在宅勤務の対象となりにくい。でも、国や自治体の要請もあるし、派遣している社員の健康が心配だし、という理由があれば、今までの契約慣行を見直したい、という要請が派遣元の会社からあれば派遣先も聞かないわけにはいくまい。
 情報漏洩?それは社員も同じでしょ。それに提案しているのは「アウトソーシング」サービスですから、前例はあります。そうなると「同業他社に情報が流出するのでは」という懸念も払拭せざるを得ない。まあ、派遣会社のデータセンターを見せて、社別にブレードサーバー分けてます/監査もこの範囲であれば受け入れます、といったところを理解してもらう必要はあろうが。
 あとはこまごました契約をいかに簡易に行うか、ってことだろうなあ。法律はそれほど詳しくないんだ。電子契約になるから印紙代の負担は大丈夫そう、ってことまでしかわからない。

 かいつまんで言うと、派遣社員という人を仲介するビジネスから、ソリューションを提供するビジネス、小さな単位のアウトソーシングに切り替えてゆく、ということなのです。
 さっき、私がツール作っても派遣先にもっていかれる、という懸念を示したが、「アウトソーシング会社のノウハウ」であれば、手を出して来ることはないでしょう。気兼ねなく生産性向上に励むことができるというものです。これ大事。研修でいろいろ教えこんだとしても派遣社員はアウェーで孤立(複数人もいますが)、その場で考えついたノウハウがあるとしてもそれの還元・共有はなし。これでは派遣社員はただの使い勝手の良い道具、の域をなかなか出られない。(ホントにノウハウ共有がないのかは知らない、ああ、あたしが書いたツールがなぜか共有されていたというのはあったな。動くけど問題点があるので私の目の届かない範囲では使うなとくぎを刺したのに。)

 派遣社員自体は例えば郵便物運ぶといった物理的仕事がある限り残るだろうし、「アウトソーシングの仕事内容を聞いて、データの受け渡し、ないし前処理をする」という人も現地に必要であろう、が、かなりの仕事がセンター処理されるようになると、間違いなく派遣社員の数は減るということはいえる。
 最初に考えついた派遣会社がぐぐっとシェアを伸ばすとしても、結局はじり貧かもしれないな。もっとも「そもそも人が多すぎる」と感じている当方としては、そんなもんでしょ、とあまり悲観していないのだが。

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