(地方)公立校、3度目の受難

 私立の自称進学校はだいたいそう言うがITに力を入れているそうだ。なのでコロナ禍の学校閉鎖期間中もオンラインで授業を進めている。予想される通りの変わったことは起こっているらしい。
 先生が赤ちゃんを抱っこしながら授業したとか。
 体育の授業は各自がカメラの前でダンスしたとか。
 家庭科の授業は10分しかすることがなく後は自習とか。
 生徒はみなさんパジャマのまま授業受けるようになったとか。
 回線状態が悪いと言って、全然ログインしない生徒がいるとか。
 テスト範囲がわからないので勉強する気にならないとか。(6月になれば登校が始まって中間テスト、となりそうだがはっきりしないので、Fランク高校によくある「ここテストに出ます」のアナウンスがないのだそうな。)
 うちの子の場合、いつ歌のテストで録音してきなさい、があるかと親はワクワクしている。曲なあに?ベートーベン?じゃあドイツ語も教えてあげよう。

 このような授業の形態だと、「やる気のある生徒」と「流している生徒」に大きな差が付くだろうな、と予測している。

 しかし、差が付くとしてもその程度である。問題は地方公立高校である。授業やれないじゃない。「中高一貫教育」「ゆとり教育」に続く地方公立名門校凋落のきっかけになりそうだ。
 「ゆとり教育」では「言われた通りカリキュラム抜いて土日休む公立高校」vs(「土曜日も授業をする新興私立」or「予備校に恵まれた都会の公立」)の戦いに敗れて東大合格者数を一気に減らした地方名門公立高校は、今回の「外出自粛で休むしかできない公立高校」vs「問題を抱えながらもオンラインで授業を進める私立高校」の闘いに、当然勝ち目はない。
 ある程度は自主学習でできたとしても、やっぱり先生って必要なのだ。フランス語独学でやったとき「この解釈でも意味通じるんちゃおか」の質問をする先がどこにもなかったというのはつらかった。発音も直してくれる人いなかったし。

 Slackで指導、とか私が教師だったらやるだろうが、おおっぴらにやると端末持ってない生徒が怒りそうだ。それ以上に先生の間でつるし上げに合うだろう。
 そういえば、放送する番組のないNHK。スポーツ名勝負で「奇跡のバックホーム」やっていたが、あの試合、別の意味でもエポックメイキングで「甲子園最後の公立同士の決勝」なのだよね。以後野球に力を入れた私立高校がはっきりと優位に立つようになったわけだ。

 こういう時期に「9月入学」なんてことを提案している輩がいる。主張としては分かるが、今はそんなことを言っている時ではなかろう。それとも今度疫病が9月にはやったらまた4月に戻しましょうって議論を始めるつもりかい?むしろ4月はじまりだったから、つまりコロナによる自粛の開始が学年の切れ目だったから対応しやすかったのではないか?という気にはならないかなあ。4月はじまりだったからこそ、夏休み冬休みをつぶせば何とかなる、という解決策もあり得るわけだし。

 さらに別の問題がある。公立校を中心に今、学校のない児童生徒に「9月はじまりにリセットされるから、今は勉強しなくても何とかなるな」と思わせ、サボり癖を助長することだ。そうしているうちにも、自称ITに強い私立学校は着々と授業を継続している。ああ、さらに公立校が落ちこぼれる。さらによくないことに、そういうサボる輩は切り捨ててもいいという風潮が出てきている。

 9月入学主張者がお手本としている欧米では、あれよという間に感染が拡大しロックダウンが施行された。選択の余地がなかったのだ。そして今、彼らは経済活動を再開しようとしている。選択の余地がないからだ。この切り替えを「切り捨て」という観点から見ると、ロックダウンとは体力のない企業が切り捨てることであった。経済活動再開では体力のない人間が切り捨てられる。やっているのはそういうことだ。さらに第三の切り捨てとして遅れてこれがやって来そうだ「知力のない人間が切り捨てられる」。9月入学を議題に入れてしまった日本は第三の切り捨てにおいて世界のトップを走る国になるかもしれない。

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