ネットワークは熱狂しない

 ライブドアが言い始め、楽天が引き継ぎ、ソフトバンクが参入した「ネットとの融合」でプロ野球が活性化するという発想。1年経ったわけですが皆さんどう見ますか?1年で結論を出すのは時期尚早と言われるかもしれませんが、同じように「ネットとの融合」で放送局に付加価値がつく、という発想でTBS買収問題が出ているのでとりあえず評価を出しておきたいんだわ。少なくとも楽天は「時期尚早」とは言わないよね。だって田尾監督を1年で切ったもん。

 はっきり言って分からない。ファンクラブの会員は増えたようだが、それはエコノミー会員を増やしたからかもしれないし、東北地方を本拠とする球団ができたからかもしれない。でも、分からない、というところで、ネットとの融合で付加価値がついたとは言えないと判断してもいいと思う。分からせるほどのニュースも、動きもなかったんだから。
 そこまで言い切るかって?うん。だってネットを使わないでも今まで以上の付加価値がつき、盛り上がったという例が今年はあったから。見事なマーケティングでした。千葉ロッテマリーンズ。

 地道な活動はしていたんだ。松坂との投げ合いのおかげで、なんとか知名度のあった黒木を引っ張り出してのトークショー程度だけど。それは千葉に球団があるということを思い出させた程度の効果しかなかったかもしれないけど。が、パリーグ随一の「安定した」球団(本拠地も、親会社も変わらないし、親会社のゴタゴタもない)はじわじわと強くなってきた。バレンタイン監督の人柄だけではない。要するにみんなが安心して野球ができたというのが強いと思う。練習して上手くなればレギュラーになれるという確信はなにものにも代え難い。
 その昔、ロッテが球団売却を思いとどまったのは、球団を持っているということが合衆国では男の最高の道楽として、高い尊敬を集めることを知ったからだという話があるけど、道楽と思えたからこそ単に宣伝/金儲けの道具としては見なかったんだろうね。

 営業はがんばったろうね。西武系のパルコまで「千葉ロッテマリーンズを応援します」のポスターを出していた。企画も謙虚だよね。「ファン」をどう定義しているかの問題だと思う。営利企業としてみれば「ファン」は球場に足を運び、グッズを買って収益に貢献してくれる人と定義したいけど、多分ロッテは違った。そんな欲はなかった。「ロッテに関心がある人」をまず作った。それはプロ野球選手が生でトークショーをやっていれば「ああやってるな」くらいは思います。駅のホームで電車を待っているとポスターでバレンタイン監督が笑っている、ふーん、とは思う。
 幸いなことにスポーツニュースをつけるとパ・リーグの結果は分かる。流し見しながらも「今年は結構がんばってるじゃないか」くらいは思う。セパ交流戦、強い。「へーがんばってるじゃないか」。すると応援したくなるんです。人間って奴は。

 この辺で、企画部門が増やそうとした「ファン」の意味合いが変わる。「ロッテが勝つ方がうれしい人」を増やす。ロッテが勝つと1,2品安くします、という店が出てくる。続いて「足を運んでくれる人」を増やす。首位攻防戦を全席1500円で解放、ビールも半額、行こうかという気にさせる。元々パ・リーグは人気がない。つまり特定のチームのファンが少ない。要するに無党派層が多いわけだ。この人たちをロッテファンにするのは宗旨替えをさせるわけではないから、比較的容易なわけだ。
 で、ロッテはファンが少ないけど、何も持たないわけではなかった。実に品の良いファンを持っていた。この人たちが核になって新ファン層を取り込んでゆく。(連想したのは古風な小さな町アイントホーヘンを中核に産業都市を形成したオランダ+フィリップスの都市計画。)

 極めつけのプレーオフ、勝つほど良いものが安くなるロッテリア。そしてだめ押し、優勝・日本一が決まれば、日本最大のショッピングセンターが軒並み「優勝おめでとう」のポスターを掲げている。かならずしもバーゲンをしたわけではないよ。変にバーゲンをやると「相乗りしてもうけたいだけかい」という印象すら与える。でも安売りをしていないと「みんな喜んでいるんだな」と思う。ついこっちもうれしくなる。
 私はロッテのファンとは言わないが、ロッテのマーケティングのファンにはなってしまった。

 だから改めて思う。ネットと融合したからといって、これだけの付加価値をつけることができましたか?ホームページを充実させるよりコストはかかるけどポスターを貼る。ネットで中継するよりも、入場料を下げてお客さんに来てもらう。ネットでグッズを販売するよりも協賛のセールをやる。結局ネットは伝統的なマーケティングによる付加価値向上策を超えることはできなかったということだ。

 唯一心残りなのは、小宮山とJFKの投げ合いがなかったこと。是非日本シリーズで小宮山に投げて欲しかった。はっきり言って敗戦処理投手だけど、それを黙々とこなしたことを評価する人もいる。確かに大リーグにまで行った投手に敗戦処理をさせているとなれば、打たれた投手は申し訳ない気持ちでいっぱいになるだろうし、打線も「逆転して小宮山に勝ち星を」と、少しは思うだろうし、そして小宮山の緩く大きな変化球は、勝ち試合で大振りになりがちな相手チームの打者の勘を狂わせる効果はあったろう。
 小宮山だって日本シリーズで投げたいという夢は持っていたはずだ。ただ残念ながら、ちょっとロッテは強すぎた。

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