超能力ベースボール

 1974,5年ごろ、超能力ブームというのがあった。テレビではスプーンばかり曲げていたようだが、そのほかのこともできたらしい。あくまで噂だが野球のボールを投げて、18m先でほんの5センチだけ落とすことができる人がいたとか。

 今なら一笑に付されるところだが、さすがはブームの最中。極秘で入団テストを行なった球団があったそうだ。確かに打者は凡ゴロの山。これは本物だ!と入団が決まりかけたとき、新人監督が異論。フェアじゃない!オーナー会議でも、超能力を使って凡ゴロだけを見せるなんて、お客さんが面白くない、ということで、全球団、契約禁止ということになったそうだ。
 かの超能力者にとっては納得いかないことかもしれないが、仕方ないかなと思う。超能力で凡打の山を当たり前のように築いても何が面白いものか。チャンスにやたら強いが、併殺打も多いから見ているほうはハラハラするのだ。しかも、打者走者が当たりに拘わらず一塁まで全力疾走!凡ゴロにみえても間一髪アウト。これだからお金を払って見る価値がある。(私はかの新人監督の現役時代をよく知らないので推測で書いているが、見逃していいプレイが一つもなかったらしい。東京六大学のデビュー戦、試合前のノックをトンネルしたらしい。にもかかわらず、捕った振りをして、一塁に矢のような送球、の真似、観客は大喝采。これを長嶋と言う。機械的に凡ゴロを打たせることができてもスターにはなれない、ということだ。)

 もし、この超能力者が本物だったとして、ナショナルチームに所属、という選択肢ならあったかもしれない。当時はそんなのなかったけどね。サッカーなら、どうだったかな。でもサッカーボールは野球のボールに比べて大きくて重い。5cmずらせばいいというものでもない。やっぱり駄目かな。でも、ワールドベースボールクラシックに出るナショナルチームなら「勝てばいい」のだからこの人の活躍の舞台はあったはず。
 野球のナショナルチームが生まれる時代になっても、そういう超能力者が名乗り出ない、ということは結局、超能力なんてないのだ、ということかも知れない。

 ちょっと、さびしいかなあと思っていたら、それは「超能力」なんて前面に出さずに、こっそり使っている方が効果あるよな、と気付いた。観客が「なんであんな球が打てないんだ」とフラストレーションをためてながら大声で打者を応援する。解説者がしたり顔で理由付けをする。悪くはない。たしかに、凡ゴロばかりではつまらないけど、最近になって「ただ勝てばいい」という価値観も市民権を得てきたようだ。ファンに高揚感を与える、とか夢を与えるという価値観が少しでもあるなら、日本シリーズ完全試合実現か!と盛り上がったところでピッチャーを岩瀬に代えるわけがない。しかしながらこの継投を支持する人も少なからずいるそうだ。

 なるほど、落合監督ならこの超能力投手を採用するわ。中村ノリも雇ったし。
 というわけで中日にたいした球でもなさそうなのに、常に凡打を打たせる投手が出てきたら、超能力者かもしれない、と期待することはできそうだ。

 この落合監督の継投をみて、勝てばいい、という価値観が蔓延していることを知り、臍をかんでいる人が一人いそうだ。ホリエモンです。彼が仙台イーグルスを立ち上げていたら、絶対超能力投手を雇いそうだ。それともプロ野球に対抗してバーチャルリーグを立ち上げることを考えているかな。サイバー空間で野球のリーグ戦をやるというの。要するにコンピュータがやる野球ゲームを中継するのだが、それなりにマーケットがあると判断するかもしれない。ドラマよりも勝敗を優先する人がある程度いれば成り立つよなあ。でも、バーチャルリーグの選手にスターなんて生まれそうもないぞ。(それは今のプロ野球でも似たようなものかな。)

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