算術的に言うと1/3である。スポーツネタ、目次へ
当たる方が少ないが、奇跡というほどではない。
ところが、負け癖がついている人にとっては、たとえ1/3の確率でも、引き当てたことが「熱い気持ちがもたらせた奇跡」に思えたのだろうな。2013年10月24日。3球団競合となったドラフト1位の抽選。通常野村監督がくじを引くべきところ「自分は外すから」と気弱。代わって出たのは、ドラフト1位大瀬良を5年間追い続けた田村スカウト。
所詮は抽選である。純粋な確率である。しかし、当たりくじを見た途端、顔を真っ赤にして涙をあふれさせていた田村スカウトを見れば、それはあなた「積み重ねた努力のもたらした勝利」と思います。人生初の抽選〜幼稚園の入学適性検査〜を確率なんぞに頼らず、冷静に計算して箱から当たりくじを取り出した私でさえ、そう思ったのだ。カープの選手ならなおさらだろう。全員が「当たれ!」と念力を送ったに違いない。もちろん選手は田村スカウトのことを知っているだろう。あの熱い人だ、って。監督であれば内心反発を抱いている人もいるだろうが、スカウトを恨む選手は一人だっておるまい。だから「カープに当たれ」と同じく「田村さんに当たれ」と思いを込めただろう。感極まった田村スカウトの顔を見て選手は思った、努力は報われるものだと。つまり、この当たりくじは、田村さんの努力とみんなの気持ちが引き寄せたものだと。
大瀬良投手も、応える。「自分が全然たいしたことなかった時から、ずっと見ていてくれて」と声を詰まらせる。これが読売巨人ならなんか手を回したような気がしなくもないし、実際手を回してきたが、カープにそれはない。「努力は報われる。」「みなの熱い気持ちは通じる。」このとき、選手全員が心を一つにした。2014年のカープ快進撃はここから始まったんじゃなかろうか。それこそドラフトのくじを引かなかった監督からして「自分は外す」と気弱だったのだ。まるで2013年のシーズンを象徴するような言葉ではないか。順位も一時的にいいところまで行くのだが、大事な試合で踏ん張りきれずズルズルと負けが込む。ここで1本出ればの場面で空振り三振してしまう。振り返るとこんなゲームが続いてきたのだ。このとき、彼らは「結局自分たちは負ける」という、いわゆる「負けぐせ」に縛られてきたのではなかったのか。
が、あの時、たとえ錯覚であったとしても「努力は報われる」という成功体験をチーム全員が共有(大瀬良を含め)した。この時の熱気が試合で苦しいときにベンチから伝わってくる。だから踏ん張れるようになった。ここで生まれた気迫の差が、チャンスの空振り三振を、「粘る」に変えた、やがて「打ち返す」までになった。というわけでシーズンの最後に提案したい。
「田村スカウトにMVPを」。
せめて日本シリーズ、本拠地戦の始球式に投げてもらいたい。もちろん、ホームベースには大瀬良が座るのだぞ。もっともキャッチャー出身の田村さんとしては、自分が大瀬良投手の始球式を受けたい、と思うかもしれないなあ。