ナウいゼ!オリエンテーリング

 最後にオリエンテーリングをやったのは、入社時の研修だったかな。
 多分周囲の情報を感知する能力が高いのだろう、こういうのも得意である。例によって圧倒的だった。それにしても地図の縮尺具合を体感するのが苦手な人が多かったなあ。左に曲がるところを、「地図によると」と信じてまっすぐ進んでしまう。確かに直感ではそうなんだよ。でも等高線から読み取れる地形と重ね合わせると、案外この地図、縮尺が大きいって分かるだろ。
(研修と言えば、体を動かさない雑学レベルでも溜め込んだ無駄知識は他人比!!のようで、月面に置き去りにされた時の持ち物選びは圧倒的な最高点であった。ちなみに8点。まずは方位磁針を捨てる。月には地磁気がないからね。拳銃はクレバスを飛び越える際の推進力として使えるよ。酸素がなくても発火できるのが火薬だ。FMラジオは不要輻射が大きいのでそれを手掛かりに位置を探知してくれるかもしれない。
 命の危険にさらされるという緊張感になじんでいるので、得意もいいところである。「これはひっかけ問題ではないか」などとのんきなことを言っている人をどやしつけたので研修としての評価は低かったようだが。
 それと「みなで協力して考えたほうが良いものができる」ということを課題を通じて教えたかったそうなんだが、残念ながら一人が圧倒的だと話し合いの結果、チームのスコアは下がっちゃうんだよね。そこそこ一般的な事象らしいが。
 マニュアルのある(作れる)分業/協業なら集団の方がいいが、知的作業の場合、個人の方が高いパフォーマンスを示すのは決して例外的なことではない。なんなら、そこらの作家に聞いてみるかい?編集者との雑談でアイディアが湧いたりすることはあっても、二人で一緒に文章作るなんて考えられんでしょう。迫力が無くなるんです。)

 閑話休題。オリエンテーリングは私が地図を読んで方向を決め、一人がペースメーカーとなって走り、目の良い2人がポイントを探し、などと分業したから集団の力が効率よく発揮された。(それでも、ときどき「作戦会議招集!この道をゆけば確実だが、のっぱらを横切れば早い、どっちをとる?」なんて盛り上げにも気を遣ったんだぞ。)分業の大切さを知り、チームワークを向上させるにはよい試みだったと思う。

 では、今の新入社員の研修にオリエンテーリングはあるのだろうか。百人単位の新入社員をバスで富士山麓に連れてゆくような余裕があったとしても「絶対にない!」と言い張れる。
 考えてみなさい。いや考えなくても分かるけど。皆さん緑の山の中、スマホを見ながらぼそぼそ歩くさまが容易に想像できるだろう。
 まず、スタート地点の地図を写真にとってポイントを確認。GPSと連動したカーナビソフトで現在位置と方向を確認。あるいているうちにツィッターで「ポイント1番の記号は」。
 なんと安易な。それでもリスクはある。舗装されてない道、歩きスマホ中に足を踏み外して・・・。

 周囲の情報を感知する能力、スマホのおかげで退化することは間違いない。
 うちのニョーボでさえそうである。「北と言われても分からん」「太陽はどっちにある」。「新宿に行くのにこの電車に乗っていいか、さっきネットで検索したのと違う。もっと速いのがあるんじゃないか?」「今、目の前で発車ベルの鳴っている埼京線より早いものがあるか!山の手快速だぞ」。方向音痴の傾向は昔からあるのだが、スマホに頼ってさらに方向音痴の度合いが増した。でも多分、今日の天気を知るために、窓の外を見るより先にブラウザを立ち上げることはならいと思うが。

 なので「スマホは持つな!不測の事態に対処できなくなる」というのが持論なのだが。そこまで行かずとも周囲の情報を感知するチャネルを切ってスマホに没頭するのはアホの量産開始、と思っている。だって前から人が来ていることすら分からんのだよ。当たり前のように衝突コースに入ってきた人、たまに腕で止めるしぐさをしてあげます。驚いた顔をして逃げます。失礼だということが分からんのだろうか。

 いま、車で歩行者天国に突っ込むという「あの」事件があれば、さて、何人死ぬだろう。
 「死ぬまでスマホを離しませんでした」というのは決して美談にはならないと思う。

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