ウィルスショック

フェイの場合

仲間なんていらないし、そんなの持つもんじゃないし、余計な気ぃ使わせるし・・・。
でも知ってた?風邪のときって看病してくれる人がいないってのは、かなり辛いのよね。何度も経験してるけど、これだけは勘弁してほしいわ。
まぁ、あたしっていい女だから、何もしなくても男はよってくるんだけどね。そういうのに看病させて治ったら、はい、さよなら。こんないい女を看病できたんだから幸せに思いなさいよってね。
・・・だけど、今はそんなことしなくても大丈夫。だってこの船の殿方があたしを看病してくれるでしょうから。
あら、そういってる間にジェットが来たじゃない。
「ちょっとジェットぉ、あたしすっごく調子悪いのよね。何か栄養のありそうな物、作ってくんない?」
ちょっと上目遣いで具合の悪さアーンド女らしさをアピールしてみたけど、ジェットなら助けてくれるでしょ。
「ん?確かに熱はあるようだな。頭大丈夫か?まぁ、医者でもいったらどうだ?」
それだけ言うと、ジェットはそのままどっかいった・・・ちっ、何なのよあの態度。
第一さ、あたしに医者に行けるようなお金あると思ってんの?行けるんだったら二、三日前に行ってるっての。
もう、男の風上にも置けない奴ね。仲間を何だと思ってんのよ。
まあいいわ、代わりにスパイクが来たし。
「ねぇねぇ、あたし風邪引いちゃったみたいなのよ。何か、ない?」
「金ならねえよ」
違うんだってば!!
「そうじゃなくて!!食べ物でも毛布とかでも・・・」
ちょっとむきになって怒鳴っちゃったけど、どうでもいいか。なんかいい加減疲れちゃったわ。
「もういい、あたし寝るわ」
あぁ、やっぱこいつらって全然気の利かない男たちなのよね。こういう時は寝るしかないわ。歩くのも辛くなってきたけど、部屋まで行かなきゃ。リビングから出ようとした時、後ろからスパイクが一言
「そんな顔して寝てたら、助けてくれって言ってるようなもんだぜ」
ちっ、気付かれてたってわけね。ていうか気付いてたら助けてちょうだいよ!!
でも、もういいわ。部屋にもついたことだし。
私はベッドに倒れ込んで、そのまま布団に包まった。
じゃ、おやすみ。

・・・何時間くらい経ったんだろ?ぼんやり夢でも見てたの?

・・・フェイ、おい!フェイ!
ん?誰よ、呼んでるの。部屋のドアが開いたんで片目だけ開けた。あ。なーんだ、ジェット。何?なんか用?
「何だ、寝てるのか。これ、置いとくぞ。早く飲んじまえよ。おっと、遅れちまうな」
・・・ジェットはそれだけ言うと部屋から出てった。
私はジェットいなくなったのを確認してから置いていった物を見た。何よこれ。ホットミルクじゃないの。顔を上げて、つい部屋の中を見回した。当然誰もいないんだけど。
「・・・んじゃ、いただきますか」
ホットミルクをひと口飲んだ。何だか、懐かしいような、そんな味。私は両手でコップを持ってゆっくりとあったかい、甘い、優しいホットミルクを飲み干した。覚えてはいないけど、自分の過去にもきっとこういう事があったんだろうな。そう思うと何故か胸が熱くなってきた。それはホットミルクが体の芯を暖めただけじゃない、かもしれないわ。
「ごちそうさ・・・」
そう言いながらコップを置いたその瞬間、ドアが開いたと思う間もなく何かが部屋に飛び込んできた。
「ふぇいふぇーい!!おっ元気ですかぁー!!」
な、な、何!?ちょっとしんみりしてたとこに、突然エドが出てくるから驚いたじゃないの。しんみりしてるところも、驚いているとこもエドに見せたくなかったんで、わざと不機嫌そうに振舞ってみた。
「元気なわけないでしょ。病気なんだから・・・」
そう言いながら再び布団に包まろうとすると、エドが大きな声で楽しそうに言った。
「ジェットとスパイクはフェイの病気を治すためにおでかけしたよー」
えっ?あの二人が・・・。ちょっと驚いてエドの方を見ると、腰に手を当ててニッコリ笑っている。屈託のないエドの笑顔を見ていると、チョットだけ素直になれる気がした。
「そうなの・・・そうなんだ」
チョットだけだったからそれ以上は言えなかったけど。

・・・何か、変な気分。そのあと眠った私、とってもいい夢を見た気がする。

翌日・・・

「おいフェイ!!どこほっつき歩いてたんだよ!今、昔の同僚から、ここにいい賞金首がいるって連絡入ったんだ。とっとと支度して行くぞ!!」
ちょっとビバップから離れただけでしょ!?別にここが私の帰る場所じゃないんだから。あんた達に縛られる筋合いもないの。でも、今はイイ気分だから許してあげる。
そう、風邪が治ってから私は初めての外出をした。外の風は気持ち良かった。イイ気分になったんで街まで買い物に行ってみた。そして今、私はポケットに手を入れている。
またジェットが大声が聞こえた。
「突っ立ってないで早く・・・」
言い終わる前に、私はジェットにポケットの中のものを投げた。それをキャッチしたジェットは不思議そうな顔をして、
「なんだこりゃ?」
と、野暮なことを聞いてきた。
「気まぐれよ。ほら、早く行きましょ!また横取りされちゃうわ!」
それだけ言って私はレッドテイルに駆け込んだ。ジェットもハンマーヘッドに乗り込んで、チラっとこっちを見て微笑んだ。気付かないフリして私は仕事の話を切り出した。
「で、今度の賞金首はどんなの?」
「あぁ。昨日から追ってんだがな。スパイクが降りちまって一人で大変だったんだ。居場所が分からんくなっていたがな。で、これがそいつのデータだが・・・」
昨日から、か。で、こいつが賞金首で・・・
え?
「昨日・・・それって私のために捕まえに行った賞金首じゃない!まだ捕まえてなかったの!?」
あ、思わす口走ってしまった。モニターのジェットが何だか微妙な表情でこっちを見つめている。結局、怒ることに決めたらしく、こっちに言い返してきた。
「なんだって!?誰がお前みたいなののために仕事するかよ!エドになんて言われたか知らんが、だいたいなぁ・・・」
「何がお前みたいよぉ!!こっちだってホットミルクのお礼とか思ってお土産まで買ってきてソンしたわ!!」
私はジェットの台詞を途中で奪って更に言い返した。
あ、またやってしまった。しかし時すでに遅し…。
ジェットはにやりとして言った。
「・・・ほぉ、あれはそういう事だったのか」
私もにやりとして言い返した。
「・・・アンタもエドの言った通りだったのね」

その顔のまま数秒間の沈黙の後、

「「今日は絶対捕まえてやる!!」」


フェイとジェットは声を揃えて叫び、最高出力で飛び出していった。

  Out of the mouth comes evil


作/Can.T

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