エド(?)の場合
その日はやけに静かだった。
病み上がりのスパイクとジェット、そしてフェイ。そのうちのジェットとフェイは賞金首を追って出掛けていた。
いつもと違うのは、そこら辺を走り回っているはずのエドがダウンしていることだ。アインも寂しそうにリビングで眠っていた。
昨日からジェットはある賞金首を追っている。大した奴ではないのだが、色々とあってスパイクは早々に降りてしまった。
そのスパイクは今までソファに寝転んで本を読んでいた。といっても文字の羅列を眺めているだけでどうにも頭に入ってこない。
ジェットのやっていることが気になるのか。別に賞金首を探しているだけで、いつもの事だ。ザコだというのもまた、いつもの事だ。
スパイクは答えをを出さないまま単調な作業を打ち切って本と閉じた。困ったことに次にやることが見つからない。アインにかまっても逃げられるだけだろうし・・・。そう考えてスパイクは立ち上がった。
エドの様子を見に行くことにしたのだ。スパイクの行動としては有り得ない部類に入る。心配だったからではない。どちらかと言えば暇つぶしの一つだ。
エドはフェイに彼女の部屋に寝かされている。これもフェイの行動としては有り得ない部類に入るが。
フェイの部屋のドアが開いた。そこには、熱っぽい顔をして横になりながらキーボードを叩いているエドがいた。どちらかと言えば何かに取り憑かれたような顔だ。
「お、おいエド。大丈夫か?」
さすがに辛そうな顔のエドが心配になりスパイクは声をかけた。が、反応はなく同じようにキーボードを叩いている。エドも単調な作業をしているようだ。
スパイクはエドに近づき何をしているか、モニターを覗き込んだ。そこには無数の文字が並んでいる。その中からスパイクは「風邪薬」という文字を見つけた。その他は覚える間もなくスクロールして消えていった。
「お前、風邪薬探してるのか?」
再び声をかけた。今度は反応したエドはゆっくり振り向いて言った。
「そうだよぉ。でも、エドの風邪に効く薬がわかんないんだよぉ」
スパイクは思った。漢方で治せないものはない。自分の体で確かめたことなのだ。
「エド、漢方薬飲むか?」
スパイクはそう言って漢方を勧めた。が、
「ぜぇったぃ、ヤダぁ」
弱々しく、だがきっぱりと断られた。エドはちょっと前に漢方薬を飲んでトイレにダッシュしている。よっぽど不味かったのだろう。エドは振り返りモニターを見つめて何かを入力し、それが終わるとすぐに寝転がって、そのまま眠ってしまった。
「・・・まぁ、寝てりゃ治るか」
漢方が使えなかったのが残念だったが、スパイクはフェイの部屋を後にした。
リビングに戻ったスパイクにはやはりやる事がない。そこにいたはずのアインもどこかへ行ってしまった。ソファに座っておもむろにテレビをつけた。なんともタイミングよくBIGSHOTがやっている。
「次に紹介するのは、コーター・J・フォワード。元スポーツ選手で通称『ホワイトラヴァー』。昨日も紹介したけど、今日も紹介しちゃうぞ!!」
「ホント彼ってカッコ良いわぁ!こんな人なら見逃しちゃうかも」
「おいおいジュディ、何言ってるんだい。しかも昨日も同じ事言ってるじゃないか・・・」
TVではお馴染みの漫才が続いている。突然、通信が入ってきた。スイッチを入れると、額・・・どこまでが額かわからないが、汗を浮かべているジェットが映った。かなり息も切れている。
しばらくしてやっとジェットは話し出した。
「おぉ、スパイクか。今、例の賞金首追いかけているんだが、逃げ足が速いの何のって。さすが元サッカー選手だけある。なんで俊足で知られてたらしいが・・・いや、感心してる場合じゃないな。兎に角いつ帰れるか分からんから、エドをよろしく頼むぞ」
遠くで「こっちよジェット!」とフェイの叫び声が聞こえてすぐに通信は切れた。
さっきBIGSHOTやっていた賞金首は、確かジェット達が追いかけていた奴だ。それよりスパイクが気がかりだったのはエドを頼むと言われた事だった。
「まるで父親だな・・・」
ぽつりと言った後、スパイクは立ち上がって冷蔵庫に手をかけてまたぽつりと、
「ずっと寝かせとくか」
そう言ってエドの寝ているフェイの部屋へ向かった。
中に入ってエドを見ると、だるそうな顔をして眠っていた。しかし布団だけはおもいきり散らかっている。風邪の時くらいは丸まって寝るだろうに。
・・・・・・。
スパイクは毛布を上から掛けてやり部屋から出ていった。
部屋から出るといつから居たのか、足元にアインが首を傾けて座っていた。
「・・・なんだよ」
不機嫌にアインに言った。アインはさらに少し首を傾けて立ち止まったスパイクを見つめている。スパイクはそれを無視するように歩き出し、
「俺はガキとケダモノは嫌いなんだよ」
独り言のようにそう言った。
アインの瞳にはスパイクが微か微笑んだように映った。
結局スパイクは、ジェットとフェイが帰ってくるのを待ってリビングのソファで横になっていた。最初に逆戻りだ。
おもむろに本を取り出し再び読むことにした。
今度はやけに本に没頭することができた。スパイクは時間の経つのも忘れ・・・
ピーッピーッ
通信だ。しかもビバップへの客だ。 ため息を吐いてスパイクは立ち上がった。
やっとやることが見つかったのにと言わんばかりに不機嫌な顔で通信をとった。
「もしもーし、お届け物でーす!」
でかい声の、どうやら配達人と思われる男が来ているらしい。 しょうがなくスパイクも荷物を取りに行った。男はスパイクの姿を確認すると、
「毎度ありがとうございまーす!!」
やはりでかい声でそう言った。大きな箱を胸元に抱えている。
「なんだ?それ」
「ご注文になった風邪薬30種類ですっ!!」
なぜか笑顔で答えるでかい声の配達人。
「ちょっと待てよ。俺はそんなモン…」
「いえっ、確かにこの船へ薬を届けるようメールが来ましたのでっ!!」
配達人はスパイクに全く付け入る隙を与えないで話した、というより叫んだ。
露骨にいやな顔をしてみせるスパイク。しかし相手は全く動じない。それどころか笑顔まで作っている。
「あーくすりきたきたぁ〜!!」
エドが突然現れた。スパイクはエドが風邪薬を探していたことを思い出した。まさか頼んでいたとは思わなかった。しかも30種類も。
しかし今のエドは一眠りしたせいか妙に元気だ。むしろ風邪が治っているのではと思わせるほどに。
「…そうかい。じゃあ受け取っておくわ」
スパイクはそう言って荷物に手を伸ばした。が、
「宅配料と薬の代金で17,640ウーロンになりますっ!!」
配達人は箱をしっかりと持ったまま言った。金を払わない限り渡さない気迫が感じられる。
「って誰が払うんだよ」
周りを見渡しながらそう言ったスパイクに、やはり間髪入れず叫んだ配達人。
「お支払い願いますっ!!」
「おねがいしまぁ〜す」
それにエドも続いた。
「おまえが言うなよ…だから ガキとケダモノ は嫌いなんだよ!!」
ビバップの中に悲しい叫びがこだましていた。
「おくすりは併用しちゃだめだよっ」
「それをおまえが言うな!!」
ジェット 「『白い恋人』って知ってるか?」
スパイク「あぁ、地球の隠れ銘菓だろ。この雑誌に載ってるぜ」
ジェット 「次回の忌々しい相手はこいつだ」
スパイク「何言ってんだ?食いモン相手に何しようってんだ?」
ジェット 「いや、違うんだよ。その相手って言うのはな・・・」
エド 「世紀のたいけつ〜!ほんとの地球名物はどっち?ぴよこと白い恋人、勝敗はいかにぃ〜」
スパイク「なるほどな。俺としては…」
ジェット 「勝手に話し進めるなって」
エド 「エドはぴよこ〜」
ジェット 「だからそうじゃなくてよぉ、次は賞金首を捕まえるんだ。頼むからもっと気合入れてくれよ」
スパイク「あぁ、分かってるって」
ジェット 「という事で、次回『ジェイズ ヴィクトリー』」
スパイク「・・・八つ橋ってのは美味いのか?」
ジェット 「あのなぁ・・・#」
作/Can.T