(2069'タイタン)
絶える事の無い戦火。
また一人、また一人・・・。
僕の仲間が死んでいく・・・。
僕の同志の星が・・・流れ、消えていく・・・。
その日、僕は生き残った。
そんな実感を得るために、僕はポケットの中の煙草をとりだす。
近くの都合の好い岩にねっころがり、ライターで火をつける。
そんなライターの火が仲間を消していった
あの戦火に重なって見えてしまうのが悲しい・・・。
仲間が死ぬのは当たり前、そう。
戦場(ここ)ではそれが普通なんだ・・・。
現に今さっき、お馴染みのカードメンバーは僕を抜かして一人だけとなった。
その僕も、何度も死にかけた。
だけどこの小隊の小隊長の冷静な判断のおかげで、
こうやって今仲間の死を悲しんでいるのだ。
『早く、この普通に慣れないとナ。』
僕の隣からひくく重い声がかかる。
褐色の肌。火傷をおった片目。
その時の声は、今の僕にとって、とても親しく感じられた。
僕は煙草を一吹すると、目を細めて微笑んだ。
『ロンか・・・』
その男の名前はロン。
木星の惑星『カリスト』から来たらしい。
ここでは、カードゲームをやっている時に知り合った。
しばしの沈黙のあと、ロンは口を開く。
『・・・辛いか?』
僕は煙草をくわえなおし立ち上がった。
『そりゃあね、こんな状況で辛くないなんて言う人がいたら、どうかしてるよ』
僕が軽く笑ってみせる。ロンもそれに反応するように微笑んだ。
しかし、微笑み細くなった彼の瞳から静かに涙があふれた。
僕の心に何かが響く。
『・・・何で、こんなとこきちゃったんだろうな、俺達』
僕は何も言わずにその言葉に耳をかたむけた。
『グレン・・・あの時のカードメンバー・・・お前だけになっちまったよ・・・』
ロンは一筋おちた涙を拭うとまた精一杯の笑顔を僕に見せた。
僕も、彼がこれ以上、涙を流さないように微笑んだ。
そんな事はこの戦場では当たり前、だから、誰が死んでも。
受け止められるようにしていたつもりの心は。
いま、素直な言葉で痛みはじめている。
仲間がいなくなる。そんなのは。ここでは当たり前の事なんだ。
でも、僕の心は一瞬それをためらっている。
『・・・お前は・・・ずっと、そばにいてくれよ・・・。』
ロンはそう言うと懐から、トランプカードを3枚取り出す。
『こん中に、ジョーカーが一枚入ってる・・・解るな?』
彼が言いたいのは多分、これは純粋なババ抜きと言う事。
『丁度、こないだの続きだ、お前の持ちカードと・・・』
カードをきり終わり裏返すと、ロンは僕に1枚カードをくれる。僕のカードはジョーカーではない・・・。
僕が軽くわらって、ロンをみる。
『おれのにも、ジョーカーはないんだぜ。』
ロンもかるく笑う。
『勝ちの決まったような顔をするのはまだはやいぜ。』
二人のカードにジョーカーは入っていない、つまり。
『んじゃ・・これは・・・』
『そ、ジョーカーはジョーカーの姿をしていない。最後までそいつ(ジョーカー)と嫌でも、付き合ってなくちゃわからない・・・。ジジ抜きだ。』
僕はその言葉を聞いてつい吹き出してしまった。
『なつかしいな、ここ5年は聞いてもいない言葉だよ。』
『皆、きらいなんだよ、どのカードを信じていいのか、どのカードが裏切ってくれるのか、はっきりしないゲームだからな。』
僕は自分のカードを見る、ダイヤの5だ。
このカードは、僕を裏切るのだろうか・・・。
『こんなモン、に駆けるのも何だけど。・・・100だ。』
『ん、じゃあ、ぼくは300で・・・。』
ロンはビックリしたような顔で僕の顔を覗き込む。
『おいおい、随分強気だな。』
『・・・僕はね、このカードは信じていいきがする』
ロンが顔をゆがめる。笑うのを絶えてるって感じだ。
『愉快だな、信じてかかるやつは、このゲームでは負けるんだぜ。』
ロンがそう行って袋に掛け金100を入れた。
『・・・悲しいね。』
僕も300入れる。ただ一瞬の勝負のはずだった、
僕が彼のカードを引く。それだけで、ゲームはおわるんだ。
しかし、僕が手をのばした時だ・・・。
『第3小隊、直ちに出撃準備!クレーターBに向かう!途中、敵軍の小隊と乱戦があるだろうから。身を引き締めて行け!!』
誰もが表情を固める一瞬だ、隊長が移動命令を出した。
『うーーん、また後で続きをしよう。』
ロンが袋とカードを懐に入れると、またなと行って去って行った。
ぼくも、渡されたカードを胸のポケットに入れた。
『・・・ダイヤの5か、しんじていたいな。』
僕は煙草を捨てると銃を背負い、列に並んだ。
タイタンの住民と植民地化をはかる木星国家の間に勃発した戦争の中僕達の部隊は指令に遵い砂荒らしの中をクレーターBに向かい移動した、約47分位の所だ。
耳を引き裂くような高音とともに、爆発が僕ら第3小隊を襲った。敵軍だ。
煙りで視界は0にちかい。こんな時たよりになる小隊長のこえは爆風とそれによって吹き上げられた砂によって聞こえなくなっている。
僕はとにかく走った、一陣の風が吹き目の前を被っていた煙りが剥がれていく。
こういった行動をとったのは僕だけじゃない。
目の前には何人もの味方兵士がいる。
小隊長は近くの岸壁の上から反撃、と指令を出す。
『Yes aer!』
兵士達の声が響く、僕は気付く、きっと、隊長だって気付いてる。
不意打ちを食らった、この小隊はすでに半分近い死者を出しているだろう。
危機だ。
目の前にいる兵士達が岸壁を登り始める、僕もあとに続く。
岩に右足を賭けた瞬間、僕の足は激しい痛みを発した。
『あっ!』
痛みに絶えきれず、僕は座り込む。
右足を見ると、今まで気付かなかったが脹ら脛に大きな切り傷がある、
そこからはたくさんの血がでている。
『随分と奥まで切れちゃったな・・・。破片か何かにあたったのか・・・』
僕は岩の影に隠れ、袖をやぶると脹ら脛に巻き付け、出血の量を停めようとした。
よくある、応急処置ってやつだ。
僕はまた立ち上がり、岸壁に足を駆ける、しかし力がはいらない。
無理をして、何度もあがろうとするが、とうとう背中から落ちてしまった。
『・・・っくそう・・・。』
僕は戦場の音に飲み込まれながらも、岸壁を登れずに岩の影で身をかくした。
次々と登っていく兵士の中から、一人、僕に気付いたようで向かってくる者がいる。
『おい!グレン!どうした!』
その深みのある声はロンだ。
『足をやっちまった!』
『救急隊は!?』
『大丈夫、少しなれれば!』
『馬鹿やろうッ!そんな事言ってる場合じゃねえんだ!』
ロンは僕の身体を抱きあげた。
『歩くぐらいは出来るから、君ははやく岸壁を登って!』
『だめだ、お前は放っとくと、その足で付いて来そうだからな・・・』
ロンは僕を抱えたまま、救急隊の所に向かって走り出した。
・・・時が止まったみたいだ。
戦争の音が聞こえない・・・。聞こえるのはロンの鼓動と、ロンの荒い息だけ。
鼓動のせいだろうか、懐かしい気持ちになる・・・。
昔、母親にこうやって抱きかかえてもらってた・・・。
ふと、想う。早く母親の写真が見たくなって来た。
どんな顔してたっけ、何時の間にか、無意識の内にはいってた、母親。
『・・・はやく、故郷に帰りたいな・・・』
ふと、漏らしてしまった言葉。ロンが笑った。
『全くだな。』
それ以降は得に会話はなかった。
僕は忘れかけていた記憶のように、ロンの胸に顔をあててみる。
『このまま、二人でにげちゃいたいね。』
僕が小声でいうとロンは笑うだけだった。
それから、どれくらいだろう。
僕は救急施設に運ばれ、ロンがまた戦地にもどろうとしていた。
『おい、グレン』
『ん?』
ロンがにっこりと笑うと懐から袋をとりだして、
『勝負、わすれるなよ。』
『ああ。』
ロンがまた、戦地にはしっていった。
看護婦と医師の治療をうけ、傷が想っていたよりひどい事だと知った。
僕はしばしの休戦だ・・・。
その日僕は夢を見た。
ロンが僕の枕元で勝負の続きを始めるところだ。
僕がカードを引く、
『・・・・・・ふふ、上がりだ。』
ダイヤの5とスペードの5で僕はあがった。
『へっ、信じるのも、手ってわけか。』
ロンが悔しそうに笑う。
『ほいよ、掛け金だ。』
ロンが金入りの袋をこっちに放り投げる、
・・・そこで、夢はおわった。
その夢を最後に、僕は彼(ロン)の姿を見ない。
戦場で時間なんてあんまり関係ないから、
どのくらい、時間が立ったのか解らないただ、足の傷がダイブ塞がった頃だ。
資源補給期間で、皆が持ち物を整理してるときだ。
一人の知らない兵士が僕に話し掛けて来た。
『グレンさん、ですよね。』
『ん。そうだけど・・・。』
その兵士は懐からカードを2枚出して僕に突き出した。
・・・そのカーどには見覚えが逢った。
『貴男の番ですよ。』
僕もカードを取り出すとその兵士からカードをひいた。
・・・スペードの5・・・。
『・・・上がりだ。』
ダイヤの5とスペードの5をその兵士に見せる。
『・・・信じてたんですね、ダイヤの5。』
僕は微笑む、それに反応して兵士は袋を出す。
『掛け金。400と・・・』
兵士はそこまで言うと、言葉をつまらせた。
『あ、あとは自分で見てみて下さい、それじゃ。』
兵士は頭を下げると、走っていった。
『・・・なんだかなあ。』
僕の心はひどく震えた。その震えは手にまで伝わっていった。
震える手で、袋の口を開く。
『・・・あ・・。』
まただ。時間が止まったようだった。
僕の目から何の抵抗もなく涙がでる。
中に入っていたのは、ひびのはいったロンのドッグタグだ。
止まった時の中で、セピア色の戦場が動き始める。
慣れてるつもりだった、慣れてってるつもりだった。
だけど、いざそうなるとやはり、何もできなくて。
僕は人に見せない涙を流した・・・。
居なくなってしまったのは、日常なんだ。
ここでの日常なんだ・・・。
何日か過ぎた。
その日、僕は独りだった。
独りほど気楽な事はない。世に言う孤独だから。
でも冷たい、ロンという同志に抱かれるあたたかさを知った僕にはその孤独は寒すぎるかも知れないけど・・・。
こうなってしまうと、涙を流す理由はなくなったのかもしれない。
僕はいつかと同じように煙草に火をつけた。
『・・・・・?』
戦場の爆発や砂荒らしの音の中に、優しいオルゴールの音が聞こえた。
・・・心地良く、それでいて、切ない曲だ。
僕が辺りを見回すと、その曲は一人の男からながれていた・・・。
知らず知らず、僕はその人に声をかけていた。
『なんて曲?』
その彼はこっちを見ずに呟いた。
『ジュリア・・・。』
作/Gren