世間を騒がせた宗教団体『スクラッチ』の指導者、ドクター・ロンデスがテレビ画面から姿を消してから一週間。
残された信者達は未だに洗脳から解放されることもなく、布教活動を続けている。
信者として潜入し、気絶してしまったフェイは、スパイクに助けられたものの、時々奇妙な行動を繰り返している。
「ジェット、結局ドクター・ロンデスの存在や経歴はみんな嘘だったというのか?」
煙草を吹かしながら、スパイクは質問する。
「ああ、エドの協力でつきとめたんだよ。それにしても子供の割には巧妙だったな」
デスクワークをこなしながら、ジェットは答えた。
人間の魂を電子の世界に解放するという教義で人々の心を捕えたロンデスの正体は、2年前に医療事故で植物状態になった15才の少年が夢で作り出した架空のキャラクターであった。彼はただ、自分の夢の世界を人々に洗脳しようとしただけの純粋なことだった。
それをつきとめたジェットとエドは親子のふりをして、入院先に潜入し、消去(デリート)に成功した。
「にもかかわらず、信者達は夢から醒めないのは何故なんだ?」
「一つのことに熱心になる者は暗示にかかりやすいってよ」
「じゃ、フェイの場合は?」
「金に目の眩んだことだ。アイツが金に絡んだら・・・」
「あら、アタシのことで何の話をしてるの?」
フェイがぬっと現れた。スパイクがあわてて、
「うわ〜っ、そういうアンタこそ、何なんだ?」
とわめいた。フェイはすぐにふくれて、
「何よ、アタシに隠し事を・・・」
スパイクにくってかかろうとしたその時、
「フェイ、そこにお金が落ちてる」
ジェットがポロッと言うと、フェイの目が突然正気をなくして、床に落ちているお金を拾う動作をし始めた。
「どうなってるんだ、フェイの奴?」
スパイクが質問すると、ジェットは、
「洗脳されていないとは言え、お金のことしか頭にないフェイにお金のことを吹き込むと、まるで暗示にかかったような動作をするんだ」
「それを言うなら、条件反射だろう?」
結局、フェイの行動は暗示によるものか、条件反射によるものか、この時のスパイクとジェットはただ呆れ返るだけだった。
人間は暗示にかかりやすい動物であるというお話。
作/平安調美人