本当は恐ろしいグリム童話

「白雪姫の母親は自分の腹を痛めて産んだ子供が憎くてしょうがなかったんだ」
 盆栽の世話をしながら、ジェットはエドに白雪姫の話を聞かせた。
 惑星をまたがる賞金首が多いこの世相では、グリム童話がちょっとしたブームになっている。しかも子供向きにアレンジされたものでなく、大人向けのグリム童話である。
 原典によると、白雪姫の母親は継母ではなく、実母であった。グリム兄弟がこの物語を世に送り出した1813年の第1版から1857年の第7版まで、かなり訂正に訂正を重ねてきた。それは、内容があまりにも残酷でかつ不道徳にできていたのだから。その為、実母に殺されかけた白雪姫の話は、第2版から継母に書き換えられたのは、実はこういった批判があったのだ。
「だから、母親である王妃はあらゆる手を尽くして白雪姫を殺そうとしたんだ」
「それで?」
「毒林檎を食べた白雪姫は一時は死んでしまって、小人達は姫を土葬するのにあまりにも忍びなかったので、ガラスの柩を作って、入れたそうだ」
「それでそれで?」
「ある日、偶然に通り掛かった隣の国の王子様が見ず知らずの白雪姫の美しさにほれてしまい、小人達にその柩を是非譲ってほしいと悲願したんだ。その熱心さに負けた小人達は仕方なく柩を譲ったんだ」
「それでそれでそれで?」
「王子様はガラスの柩を片時も離さなかったんだ。外出する時も、食事する時もだ。ところがどっこい、王子様はな・・・」
 ジェットが話をしていくうちに、
「あ〜ら、何の話をしているの?」
 赤いシャツを脱ぎ、首にタオルをかけ、右手にタオルと着替えと洗面器を持ったフェイが口を挟んできた。
「いっ、いや〜。エドに大人の白雪姫の話をしていて・・・」
「あらジェット、エドが女の子だと知ってのこと?」
 ジェットは思わず目を丸くした。マジにエドの顔を見た。見た目から見ると、ラテン系の血が入っているらしいが、白いシャツから見える胸をジーッと見ようとしたその時、
「何見てんの、このエロ親父!」
 とフェイに頭を殴られた。
「さて、一緒にお風呂に入ろうか、エド?」
「うん。♪ババババンバン、バン、バン ババババン、バン、バン♪」
 上機嫌で歌うエドを連れて、フェイはお風呂に入った。バスタブにつかりながら、頭を洗っているエドを見る。
 ホントに13才なのかしらと疑問に思った。
「アンタ、ジェットからどんなグリム童話の話をしてきたの?」
「ん〜と、『しらゆきゆめ』と『ラプンツェル』と『ねむりひめ』」
 フェイは呆れた。あんなガキンチョにこんな話をするジェットの神経はどうなっているのかと思い始めた。
 そういえば、メイファと言ったっけ?ジェットに頼んだあのチャイニーズ系の女の子。あの子もかわいかったよな。ああいった親父は若い娘に弱いのね。いくら知り合いの娘とは言え・・・。
「ねえ、フェイ。どうしてラプンツェルはおようふくのサイズがきついといっただけでおいだされたのかな?」
「ねえ、エド。赤ちゃんは何からできてると思う?」
「う〜んと、う〜んと、キャベツばたけ!」
 フェイは思わずひっくりこけて、頭をバスタブに沈めてしまった。
 エドって、本当にガキンチョだわ・・・。

  DO YOU HAVE DREAM ?


参考資料 桐生操著『本当は恐ろしいグリム童話』
作/平安調美人

<-back <all> next->