火星のある街に古びた喫茶店があった。
それは万年最下位の野球チーム、『ブルーソックス』が負けた日の翌日に、熱烈なファンがコーヒーや軽食をとりながら、ぼやいたりする、変わった喫茶店であった。
毎回、毎回といっていいほど、負け星を挙げているのに、お祭り好きのブルーソックスファンは必ず、この店に寄ってぼやく。
毎回、毎回といっていいほど、ファンのぼやきに不平不満の顔を見せずに耳を傾くマスターもブルーソックスのファンであった。
最近になっては、店が休業していて、ファンの足が次第に遠のいている。
「またか…」
その店の噂を聞いたマイルズは肩を落とした。
昨夜の試合は相手のブラックラビッツにサヨナラ負けしてしまった。
今日こそはこの街のファンに会えると思いながら店に寄った。
何時間待ってもマスターの姿が見えなかった。
マイルズは仕方なしに店を離れ、まっすぐ宿に戻った。
数日後、店の常連客だった知人から、意外なことを知らされた。
1年前にマスターが病気に倒れ、店を留守にしていたということだった。
回復のめどはまだなのだが、退院したらみんなで快気祝いのパーティを呼んでおくから、その時はまた来いよと添えてくれた。
それを聞いたマイルズはその時がやってくるのを待ちながら、今日もラジオの試合を聞くのであった。
作/平安調美人