プリン賛歌(その4)

「そいつはな、ヘイアンキョウという妖精界から満月ロードを渡ってやってきた」
 スパイクが出掛けている間に、ジェットは洗濯物を干しながらエドにお話を聞かせていた。
「そのひとって、ようせい?」
「そういうことだな。そいつは一生懸命と早いことが大嫌いなんだ」
「はしるの、きらいなの?」
「そいつは少年が持っているリュックに入って、おんぶしてもらうのが好きなんだ」
「それで?」
「そいつのお気に入りは、プリンだそうだ。スプーンですくう時のプルプルと震える感触がたまらないんだ」
「エド、プリンたべたい」
 エドが口に指をくわえながらジェットにせがむ。
「たべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたい」
 甲板をぐるぐると走り回ると、川でプカリプカリと何かが浮かんでいるのを発見した。
「ねえねえ、ジェット」
「どうした、エド?」
「なにかうかんでるよ」
 エドの目の前のいる何かを見つけると、ジェットはすぐさま川へ飛び込んだ。
 数メートルも泳ぐと、板にしがみついたまま気絶している人物を助けた。

「賞金首が賞金首を襲うとはな…」
 V・Tは苦笑いした。目の前で眠っている少女が3500万ウーロンの賞金首で、少女を襲った男は9万8000ウーロンの賞金首。賞金の額はともかくとして、何故男は、相手が賞金首であることを知らずに襲ってきたのか?
 もしかしたら、男は少女を襲うことが目的で、相手の肩書きなどどうでもよかったかもしれない。
「あんた、賞金稼ぎが嫌いなのに、何故俺に教えたりしたんだ?」
「あんたは特別だよ」
 スパイクは目を丸くした。基本的にV・Tは賞金稼ぎをクズで嘘つきでずうずうしくて、どうしようもない奴だと嫌っている。
 だが、スパイクは特別だと言われて、少し困惑した。
 自由を愛し、賞金稼ぎとしての誇りを持っているスパイクにとって、それは名誉なことかどうかは定かじゃないが。
「どうする?この子を警察につきだすの」
「俺は相棒にこのヤマは降りると言ったんだ。いくら賞金があっても乗れるものと乗れねえものがあるんだ」
「じゃ、その相棒が捕まえたとして、警察につきだせばいいんじゃないか?」
「そうか、そういう手があったか?」

「おい、しっかりしろ!」
 ジェットは気絶している者を引き揚げて、起こしに掛かった。
 まず胃袋を触って、水が飲んでいないかどうかを確かめる。
(水は飲んでいねえようだな)
 次に気道を確保し、顔を近づけて呼吸しているかどうかを確かめる。次に首筋のけい動脈を触って、脈を見る。
 人工呼吸を施し、心臓マッサージをする。それを三回繰り返して、確かめる。
 かつて警察学校で学んでいた心肺蘇生法が、今になって役に立つとはとジェットは改めて確信した。
 3セットを繰り返して、相手がようやく目を覚ました。
「おい、大丈夫か?」
 ジェットが声をかけると、相手は次の言葉を口にする。
「腹減った…」

  To Be Continued

作/平安調美人

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