ビバップ号内のリビング。ちょっとしたスペースにソファと小さなテーブルが置かれただけのとしたシンプルなものである。
そこに一人の少女が座っている。頭にバンダナを巻き、三つ編みにしたその姿は17歳という年齢よりは幾分幼く見える。少女は手にした羅盤をじっと見つめている。彼女は若いながらも風水師であった。
「で・・・その・・なんかわかったのか・・・。」
この船の持ち主、ジェット・ブラックがきいた。
「そうですね・・・。」
羅盤から顔をあげて小さな風水師、メイファは答えた。
「この船は龍、水の気の流れが基本なんです。」
「そりゃあ、そうだろうな。この船はもともと漁船を改造したものだし、偶然にもモノマシン3機とも魚の名前がついているからな。」
この少女の前では、さすがのヘビースモーカーもタバコには手を出さない。
「だから、水の気が活発になるようにすればいいのですけど・・・その気の流れが滞っているんです。」
「水の気が元気になれば、ごはん、食べられるゥ?」
床で寝ていたエドが話に入り込んできた。この2日ほど、この船の賞金稼ぎたちはろくなものを口にしていない。
「それで、その方法は?」
ジェットが話をすすめる。
「え〜っと、水の気を止めている場所がこの船にあるようなんです。風水というのは木(もく)、火(か)、土(ど)、金(ごん)水(すい)の五つの元素がバランスを取り合ってよりよい空間をつくることが大事なんです。」
「それで?」
ウンチクよりも早く結果を聞き出そうと、ジェットは合いの手を素早く入れる。
「この船に植物をおいてあるところ、ありますか?」
その言葉にジェットは自分が元凶であることを悟った。ビバップ号の中で、植物の置いてあるスペースはただ一つ・・・。
「ある、ある。ジャングル、ぐるぐる、目がまわる〜、のはジェットの部屋だよ。」
エドが特有の口調で答える。
「それが、いけないのか?」
メイファの前であったが、動揺したジェットはタバコを口にした。が、火をつけるのはかろうじて堪えた。
「本来、植物は水と相性がよいのですが、このビバップ号のつくりだとジェットさんの部屋の木が水の気の流れを止めてしまってます。この気の流れをスムースに流れるようにしないといけません。」
メイファがきっぱりと告げた。
「じゃ、盆栽ポイポイ、さよ〜なら〜。」
エドが言う。
「なんてことを言うんだ! おまえは!・・・なぁ、メイファ、その、気の流れってやつを変える方法はないのか?」
「そうですね・・・」
メイファは、八角形の板の中央に鏡のついたものを取り出した。
「八卦牌(はっかひ)です。これをジェットさんのプライベートスペースにぶら下げてみましょう。これで、木が水を吸うの勢いをおさえます。あとは、木と相克の関係にある金のものを用意することです。金と言っても、金属に限らなくていいんですよ。光沢のあるものとか・・・形だったら、半球のものは金に例えるんです。」
「半球、サンキュー、せんねんきゅう〜、半球の形、み〜つけた!」
エドがジェットの頭をぺしぺしとたたいた。
3日後、52万ウーロンの賞金首を捕らえ、久々に特製チンジャオロースを食したビバップ号の面々であった。はたして、八卦牌の成果が出たのか、卵の白身パックが効いたのか、ともかく、メイファに救われたのは事実である。
参考文献『風水先生ー地相占術の驚異』荒俣宏著
作/かまかま