「おおきくねー、おおきくねーかきかきしてねー。ばいばいねー。えへへ。ねぇ、アイン、これならみんなにちゃんと見えるよねー。
じゃあね、アイン。バイバイだよ。エドねーこれから、おとーさんのところに行くの。
おとーさんがいたら一緒にいないとだめだって、フェイフェイ言ったからね。
きっとねー、スパイクもージェットもー、これから大変なんだよ。
ジュリアって子がねーいたんだ。スパイクずーっと待ってたでしょー。
エド、邪魔にならないようにしないとね・・・。」
普通にしゃべれるんだ。アインはそんな風に考えていた。いつも自分を枕にするし、何を考えているのかわからない人間だと思っていた。それがこんなさびしそうな顔をするなんて。アインの言葉は通じない。誰にも。でも、エドはなんとなくわかってくれる。
アインはエドが好きだった。いつもの調子で、飄々と歩き出すエドの後姿がひどく悲しく見えた。アインは走り出した。
「だめだよ、アイン。バイバイなんだから。」
「わん!(ついていくよ。どこまでだって。〕」
エドはにっこり笑った。
大きな夕日が荒れ果てた大地を赤く染めていく。
もう、あの古い宇宙船には戻らない。エドもアインも決めていた。その気になればいつでも連絡できる。この星いっぱいに落書きして。
ただ、この二人連れが感じていたのは、漠然とした不安だった。
血にまみれたスパイクの姿。これまでも時々そんなことがあった。でも、今度はなんか違う。すごくいやな感じがする。だから、ビバップ号を離れることにした。
「ね、アイン。これからも、みんな仲良しね。」
「わん。」
もしかしたら、あのどこか狂ったような言動は長い間、一人でいたときに作り上げた虚像だったのではないかとアインは思った。本当はただの寂しい少女なんだと。
ついて行こう。この子に。どこまでも。枕でもいい、この子がもう一人になることが無いように。アインはこのとき自分が「データ犬」でよかったと思った。
「アインー。おなかすいたねー・・・。」
エドの目が獲物を狙う獣の目になった。アインは決断を早まったと後悔し始めた。
「まてまてー。きゃはは。アインはご馳走。エドのご馳走!ご馳走ご馳走!エドはアインのご馳走、あれ?」
いつものエドだ。アインは少しうれしくなって、かけっこを楽しんだ。
夜の空はどこか懐かしい。どうか、また変わらないあいつらに会えますように。
アインはエドの枕になりつつ、そんなことを流れ星に願ってねむりについた。
おわり
作/猫宮