これは、俺だ・・・。正確に言えば俺だったもの・・・。
俺は死んだ・・・。これで2度目だ・・・。
この景色も2度目だな・・・。
普通の人間が見れば、吐き気を催すような風景・・・。
巨大な試験管に浮いた内臓。手、足・・・そうだ俺の体・・・。
暗い部屋の中に誰かが入ってきた。
コンピューターのモニターらしいものに目をやり、俺を見た。
「意識がある・・・。自分が誰だかわかりますか?」
「・・・・・。」
何か解ったのだろうか、その白衣の女はにっこりと笑った。
「これで、再生手術ができるわ。2、3日もすれば元の体に戻りますよ。2度目の人なんて初めてだから、心配だったの。よかった。」
覚えがある・・・。この女。その瞳、見覚えがある・・・。
「スパイク。また貴方を再生することになるなんて思わなかった。でも、本当によかったわ。もう少し遅ければ脳が完全に死んでしまっていたもの。」
女は何か作業をしながら、とりとめも無く話しつづけた。
「遺伝子の情報さえあれば身体はいくらでも再生ができるのよ。でも、脳に残された記憶までは出来ないの。オリジナルの脳ができるだけ完全な状態で、残されていないとね。ただのコピーにしかならないの。貴方であって貴方じゃない誰か・・・。
貴方には失いたくない記憶がたくさんあったでしょ。脳波を見ればある程度わかるのよ。貴方ここに来てからずっと夢を見ていたでしょ。」
うるさい女だ。もう一人こんな風にうるさい女がいたな・・・。
女・・・。女は死んだ・・・。ジュリア・・・。
俺は、覚めない夢が見たかった・・・。
俺は永い眠りから覚めた。
「あ、起きた。あんたしぶと過ぎよ。化け物ね。」
反論したかったが声がうまく出せない。俺は手招きをした。
女は顔を近づけてきた、よく見りゃそれなりにかわいい顔してるんだな、この女。
「おまえ、ばあさんのくせに・・・。」
女は容赦無く俺を殴りつけた。
「心配したんだから・・・。」
ほとんど聞こえない声でそう言うと、部屋を出ていった。
入れ違いに白衣の女が入ってきた。
「あ、気が付かれたんですね。よかったわ。じゃあ、2、3質問していいですか。」
白衣の女は事務的に俺の名前や生年月日、好きなものとかありきたりの質問をしては、熱心にメモをとった。
「1月もすれば退院できますから。」
「メガネ、とってみてくれないか・・・。」
聞きようによってはひどく陳腐なくどき文句だと思った。
女は美人だった、どんなに控えめに見ても、知的な匂いのする。
「あんた、名前・・・。聞いてなかったよな。」
女は少し困ったようにうつむいた。そして、小さな声で言った。
「ルクレティア。そうだったのかもしれない・・・。長いこと自分の名前なんて考えたこともなかったから・・・。」
奇妙な言い回しだった。このどこか秘密めいた女の話は今まで俺の聞いたこともないことばかりだった。
「次元が違う世界の話よ・・・。私は時間も次元さえも超えてしまった・・・。自分の犯した罪から逃れるために・・・。」
そう言った女の目は見たこともない、青い輝きに支配されていた・・・。
作/猫宮よしき