天気のいい日は母さんと父さんともうじき生まれる僕の妹、もしかしたら弟かもしれない、と草原にピクニックに行くんだ。そして、僕は父さんに買ってもらったブルースハープで母さんの好きな曲を吹くんだ。なんて幸せは毎日だろう・・・。
あの日までは、空が信じられないくらい明るく光って、気がついたら僕は一人ぼっちだった。僕は施設に保護された。でも、長くはいられなかった。施設の子供たちはどんどん成長していく、大人も年をとる。でも、僕だけはどういうわけか年をとらなくなっていた。
そういうことに気がついた大人は僕をどこかの研究所に連れて行った。そこで、くる日もくる日も僕は人間でなく、動物のように扱われた。
どうやら、僕はどんなに怪我をしても死なない人々が長く、どれだけ研究しても成し得なかった「不老不死」を手に入れたらしかった。
研究所の人間は気がつかなかったが僕の頭は大人な身にきちんと物事を考えられるレベルに成長した。そして、時を見計らい、逃げ出した。
姿かたちは子供のままだから、「保護者」がいる。それも同情を集められる都合のいい「保護者」が良い。お金を稼がなくてはいけない、でも目立つ訳にはいかない。
仕事がいる。でも子供の姿では雇ってもらえない。せっかく、逃げ出したのに・・・。
これからは人間として生きていくんだ。いろいろ考えた。
研究所を逃げ出したとき持って来た物はそう多くはなかった。その中を見るとたった一つ、残されたブルースハープが鈍く光っていた。
澄んだ音色。僕は、生きていくんだ。この拷問に近い命で。いつ果てるとも知れない永遠の身体で・・・。
「すいません・・・。あの、ここでブルースハープを吹かせてもらえませんか。僕、この父と二人暮しで、でも父はこんなですから働けなくて、それで、あの・・・。」
車椅子の男はただぼんやりと身じろぎもせず座っている。
それを見るとたいていの店で僕は演奏をすることができ、お金を稼ぐことができた。
こういう生活にも慣れ、一度だけ、天才少年と持てはやされた。だが、それが長く続けばまた、動物扱いの研究対象にしかならない。
あちこちを転々とした。時々、「保護者」を代える必要はあったが。
僕の隠しつづけた秘密に近づくものはすべて排除してきた。「人間」でいたかったから。
どんなに血にまみれていても、僕は自由でいたかった。研究所の中は地獄だった。
生きていくことしかできない僕が自由を手にすることはそんなに悪いことなのか・・・。
今日、僕を殺そうとしたやつに出会った。一人は殺した。だって、そいつは僕の秘密を知っていたから。持ってきたんだ、忌まわしい石。そして、「保護者」を返せといった。
だから殺した。そして、もう一人。なかなか腕の立つ賞金稼ぎらしかった。
「おまえに解るのか!僕の・・・俺の悲しみが!こうやって、永遠の時を生きていかなくてはいけない苦痛。死ぬことのできない苦痛を!」
「わかんねえな。」
奴の撃った弾丸は俺の眉間に突き刺さった。何をした・・・。何を打ち込んだ・・・。体が・・・年老いていく・・・。そうかこういうことか・・・。死ぬというのは・・・。俺は死ねる。やっとあの日に戻れるんだ・・・。あの幸せだった日へ!
父さん、母さん!
そうか、あの石だ・・・。もっと早く気がつけばよかった・・・。
もっと早く父さんたちのところへいけたのに・・・。
感謝すべきなんだろうか。あの昔ドラマに出ていた男によく似たカウボーイに・・・。
作/猫宮よしき