LUCKY STRIKE (仮

[覚めない夢とのランデブー 1]


 ぴよこを掴むと、宿を探すため暗い裏道を歩き始めた。時間が時間だけに、宿を決めていなかったのは痛いところだが、着いたのが数時間前だからしょうがない。下調べで手間取ったのが原因の一つではあるが。
 裏路地を抜けるとたしか宿屋街があったはずだ。ま、薬屋や娼婦、そして賞金首やそれ目当ての賞金稼ぎがうろついているような大変上品なところではあるが。

  いくつかの路地を曲がり、仕事の計画を練り直しながら歩いていると、少し離れた後ろから、人の気配が感じられた。大方、物取りか賞金稼ぎ、あるいは同業者ってところだろう。
 俺は一気に走り始めた。まあ、ちょいと宿へ着く時間が短くなるが構いはしない。むしろ、夢を見る時間が短くなるだけ結構だ。いくつかの路地を縦横無尽に走り回る。しかし、後ろの気配が離れる気配は無い。

 「この暗いなか、、、やるねえ」

 そこまで俺にこだわるとは、なかなか光栄だね。などと考えながら路地を曲がったとき、自分のミスに気がついた。袋小路だった。ここで迎え撃つしかないか、と拳銃を抜き、今曲がった路地に身体を向き変えたとき気がついた。義眼の機能が正常に作動していなかった。視力は正常範囲だが、それ以外の機能が働いていなかった。

 「こんな時に、、、。やっぱ中古はだめだな」

 しょうがない。達観した境地だった。とりあえず、曲がり角に銃を向け相手がやって来るのを待つことにした。足音が近づいてくる。と、相手も走るのをやめたようだ。ゆっくりと、足音を消しつつ、近づいてくるのが判る。
 嫌に汗が出てくる。落ち着け、何度かこんな事態に直面したことがあるだろう。でも生きている。それは勝ってきたからだ。誰が?俺自身がだ。そう言い聞かせても汗は引こうともしなかった。義眼が機能していない所為か?相手の姿がはっきり感じ取れない所為なのか?
 
 俺は、そこまで義眼に頼ってきたのか?

 なぜか、悲しいというより楽しく感じた。丁度いい、久しぶりに生身の自分を試せるチャンスだ。

 「それじゃあ、、、いくか!」

 曲がり角に気配を感じたとき、俺は発砲した。
 角の煉瓦に2、3弾痕を付けた時、下のほうから人が滑るように飛び出してきた。それに合わせるように発砲するも、相手も上手くかわしている。
 向こうは暫く動き回った後、当たり前だが、撃ってきた。
 弾を避けるため、袋小路の中ほどにあった街灯の下にある、ゴミ箱の裏に転がり込んだ。その際、あふれていたゴミ袋に突っ込んでしまったが仕方ない。ゴミ袋同士の隙間から相手を見つつ、撃ち返す。

 「ぬああっ!?」

 相手の弾がゴミ袋を貫通してこめかみの辺りをかすめた。慌ててゴミ箱に引っ込む。ゴミ袋の強度で弾丸が防げるとは思っていなかったが、不覚にも驚いてしまった。
 最近のゴミ箱は耐久性を持たせるため厚い合金製がほとんどだ。特にこのような犯罪がおきやすい地域ではほぼ100%このタイプが配備されている。このように銃撃戦ともなれば、丁度いい盾となるわけだ。
 
 「まったくもってありがたくて涙が出てくる」
 
 突然、相手が発砲するのを止めた。弾切れというほど撃っては無いはずだ。こちらは残弾3発。予備のマガジンが2本。両腕の小型拳銃2丁。相手はどうだ?もし賞金稼ぎだったらまだ他の武器を所持していると考えていいだろう。こういうときこそ、義眼が便利ではあるのだが。
 
 「ガードナー=ダルクだな?いっしょにきてもらおうか」

 いきなり本名を呼ばれたので正直心臓が止まるかと思った。もっとも、賞金稼ぎやマフィア連中なら俺の本名ぐらい、大概知ってはいるだろうが。

 「お前の首にぶら下がってる賞金500万ウーロンを戴きたいんでね」

 賞金稼ぎの方か。なら好都合だ。連中はこちらを殺すことは極力避ける。そこに隙が生まれる。そしてこちらが相手を始末する。単純な図式だが、今までこうやって生き延びてきた。
 マフィアより楽な相手に、一気に身体の緊張が抜けた気がした。しかし、その隙をつくタイミングを探るのが一仕事だが。
 
 「わかったよ、降参だ。撃つんじゃねえぞ」

 ゴミ箱の裏から体を起こし、身体についたゴミを払いつつ賞金稼ぎのほうへ出ていった。

 「おっと、手を上げるのは常識だろ?そこを省いちゃいけねえな」
 「そいつは悪かったな。なにせ捕まった経験が無いものでね」
 「ついでに、拳銃を下においてこっちに蹴って戴くと百点満点だ」
 「そうかい」

 ま、そうくるだろうな。素直に、拳銃を下に置いて相手に向かって蹴った。どうせまだ両腕に隠してある。
 しかし、でかい男だ。暗闇ではっきり確認できないが結構な体躯の人間だ。しかも左腕が義手らしく、鈍く光っている。今時あんなに露骨な奴をしているのは珍しいが。
 いざとなったら格闘戦でと考えていたが、少なくとも俺程度の体術じゃ勝てそうに無い。今回、一番戴けないのは、こちら側に街灯がある所為で相手の姿が見えないことだ。うっすらと影になって見えているのはこちらに向けて銃を構えている姿だけだった。相手はこちらに銃を向けたまま、俺の拳銃を拾いあげた。

 「いつまでぴよこを持っているつもりだ?」
 
 あんたの隙を作るためだよ。などと言える筈も無い。

 「せっかく買った土産だ。手放したくないってもんさ」
 「まあいいさ。それより、腕に隠したやつも戴きたいんだがね」
 「なんのことだい?」

 刹那、俺の腕のすぐ横を弾丸が走っていった。僅かに切れた服の隙間から拳銃が鈍く光を放っている。なかなかいい腕をしている。この分じゃ、もう一方の腕もばれているだろう。
 ならば、この辺りで賭けをしてみるか。
 両腕から銃を取り出す動作に入る瞬間、手に持ったぴよこの箱を相手に投げつけ、真横に飛ぶ。予想通り、動いた俺に拳銃の照準を合わせるのにタイムラグができた。その隙に、両手の拳銃を取り出し相手の拳銃に向けて発砲した。
 奴の拳銃は弾き飛び、直後、俺は相手の腹とこめかみに銃を突き付けた。

 「形成逆転だ。詰めが甘いよあんた」
 「、、、想像より動作が速いな」
 「ま、職業柄ってやつさ。とりあえずあんたを殺す前に2,3聞きたいことがあるんだがね」

 相手が持っていた俺の拳銃を片手で奪い、マガジンを装填し直した。そして、相手を確認するために街灯のところまでつれていくことにした。

 「器用なもんだな。片手でマガジン交換できるやつなんざ、始めてみたぜ」
 「そりゃあどうも」  
  
 徐々に街灯に照らし出される男を見て、ふと疑問が湧き上がった。俺はこの男を知っている。どこかであったはずだ。しかし、はっきりとした記憶が探し出せない。釈然としないまま男に尋ね始めた。

 「まず最初だ。お前は誰だ?」
 「旅芸人にでも見えたかい?賞金稼ぎだよ」

 薄ら笑いを浮かべる男のこめかみを拳銃で小突いた。どうも余裕がある感じだ。まだなにかあるのかと、まわりを確認した。が、特段変わったことは無いようだった。ちょっと強すぎたのか、こめかみから血が滲んでいた。

 「名前は?」
 「、、、ジェットだ」

作/頓服
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