銃咆

 お前は悪だ、とジョージはチェヒョンに向かって言った。

 小さな部屋だった。そこには六人が住んでいる。ジョージは部屋では一番偉そうにして、また一番部屋を汚くしているのも彼だった。端から見れば、「悪」はまさにジョージであった。一方のチェヒョンは、部屋の片隅に追いやられてはいるが、不気味さを漂わせて部屋の空気を不穏にしていた。ジョージの口は軽いが、チェヒョンは滅多に喋らない。正反対のこの二人は、部屋の中でもとりわけ仲が悪かった。
 一方で、ニコライとドゥンは、チェヒョンと仲の良い方であった。しかし、その二人に対しても表面的な付き合いばかりで、本心の見えないチェヒョンの態度に、部屋の者は困惑していた。最も、これは全員に当てはまることで、本心を見せている者など一人もいない。皆、心で思っていることを口にはしないのだ。

 部屋は汚れている。六人全員で部屋を汚し、誰も掃除する者がないから、当然の状況だった。六人は自分の場所を確保するのに必死だった。少しでも境界線を越えていようものなら、そこの主は血相を変えて追い払った。しかし、床に散らばったごみは、存在しない線など軽々と乗り越えて部屋に匂いを撒いた。
 そのようにして、部屋は常に緊張状態であった。

 夜だった。この部屋に日出は来ない。ただ古びた電灯が、時折休みながら六人を照らすのだった。
 小銃をいじる音がする。一つし出すと、それは次の瞬間五つに増える。小銃を持つのは五人である。鈍い金属の五重奏はそれから暫時続き、止んだ。銃を撃つことはできない。暗黙の了解である。しかし、その了解もたびたび破られる。「試し撃ち」で開いた穴が、壁に醜い突起をつくり、影を斜めに流していた。
 小銃を持った五人は、皆銃を撃ってみたくて仕方がないのだ。子供に玩具を与え、それで遊ぶことを禁じられているように。小銃は、五人にとって危険な玩具であった。

 四年程前だ。突然それを床に向けて放ったのはカミーユであった。轟音が刹那持続し部屋の壁に残響を置いて足早に立ち去った。煙がたち込め、その他は前のままの部屋だ。
「撃ったな?」
 真っ先に口を開いたのはジョージだった。
「我らの脅威だ! 次は弾がこちらへ飛んでくる」
 隣にいるウィリアム。
「私はただ撃ってみたのだ」
「他意のないはずがない。そっちの連中もそろそろ危険だ」
 ニコライはジョージとウィリアムに目をやって吐き捨てた。ここも仲が悪い。ドゥンも同調した。チェヒョンは口を開かなかった。
「ただ撃っただけだ。もう撃たない。次に撃つのは、我らが再び戦を交える時だ」
 了解を破ると、部屋の者は心の中を垣間見せながら話すようになる。しかし、それも長くは続かず、すぐ皆は自分の世界へ帰って行く。それが均衡を保っているのだ。そして、その心の中で考えるのは、どうやって奴を屈服させようか、ということばかりである。内に秘めているうちは良い。外に漏れ出ると、体内を流れる血液のように、それは破滅に向かっていく。

 チェヒョンには銃を持つことが許されなかった。チェヒョンに良い思いを抱いているものはいないから、五人にとってはそれで都合が良かった。当然、チェヒョンにとっては正反対である。壁に穴を開けて喜んでいる連中だ。いつ自分の胸に穴が開くか分からぬ、と、顔に出すことなく怯えていた。
 チェヒョンが自己防衛の術を取るのは自然なことだった。そして、それは現実となっているようだ。目に見えているのは、血。
「貴様、本当に銃を持っていないのだろうな」
 ジョージが口火を切った。
「持っていない」
「信用できん。貴様は本当のことを言わない」
「持っていない」
「チェヒョンが銃を持っていれば脅威だ」
 ウィリアムが割って入ると残る三人も次々と加わって、言葉の銃撃戦となった。
「持っていない」
 この言葉で締めくくられた。

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