銃咆

 「貴様は危険だ。悪だ」
 冒頭のジョージだ。さすがに、この言葉には批難がたかった。部屋での社交はあくまで紳士的態度が求められた。
 汚れた部屋の空気はさらによどみ、穴だらけの壁が穴だらけの関係を包んだ。ジョージは一層チェヒョンを警戒した。

 ジョージは時とともに血気盛んになった。既に何度か「試し撃ち」をして、新たな穴を壁に開けていた。
 銃はその度に部屋の平穏を破壊した。銃など捨ててしまうのが良い。しかし、一人が持てば、大事な自分を守るため銃を持つ。それが連鎖した。銃を持たなければ----待っているのは死だろうか。そこまで、人間は愚かになれるものだろうか。分からない。試した者がいない。

 チェヒョンは銃を持っていないように思われた。思われただけだった。
「これが私の銃だ」
 重苦しい音が部屋の片隅から、その存在を主張した。部屋の空気が一瞬停まって、以前より速く流れ始めた。
「やはりそうだったのか」
「了解を破った!」
「危険だ! 気を付けろ」
「奴は撃ちかねん。我々に!」
 皆が口々に叫んだため、聞き取れない。チェヒョンはそこに座って動かず、何くわぬ顔だった。
「銃を捨てるのだ」
「捨てろ」
「捨てなければ」
「早く」
 同じような命令文の間をぬってチェヒョンの声が届いた。
「銃を持っている者の言う言葉か。自分たちはどうなのだ。部屋を乱し、穴を開け続けたのは誰だ。私か。違うだろう。私は恐ろしいのだ。私の体がこの壁のように醜くなると思うと。恐ろしさのあまり銃を持ったのだ。そして、銃を持ってから気がついた。私をも、私は恐れなくてはならなくなった。銃を持つ者は猛獣と同じだ。しかし、私はもう銃を捨てられない。捨てると、もう私は生きて行けないのだ。恐ろしくて、恐ろしくて、恐ろしさの弾丸に撃たれて死ん」
 のところで、チェヒョンは本物の弾丸に撃たれて死んだ。撃ったのは、執拗に銃を捨てろと迫ったジョージだった。驚くほど冷淡な目で、煙りの奥の死人を見つめていた。

 その体が、鈍く音を立てて床に転がった。床は血で汚れた。ドゥンはチェヒョンの腕が自分の境界に入っているのを目ざとく見つけて、急いでそれを払いのけた。

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