赤染の甼 序章 「赤晄」


序章「赤晄」 Ver.1-04 <2000/06/17>


 ……なぜだろう……

 なんで……わたしは……こんなところに……来たんだろうか?

 彼女はパジャマのまま、なんでもない住宅街の一角を歩いていた。
 時間は午前2時。むろん、あたりは真っ暗である。
 どうやって家を抜け出したのかわからない……
 ……というよりは、覚えていない……
 気付いたら、この場所にいたのだ。
「……私って……相当な夢遊病なのかも……?」
 彼女は、立ち止まった街灯の下で、ふとそう思った。
 周りはいつも見慣れた、中学校への通学路であった。
 ふと足元を見ると、彼女は裸足のままだった。
 裸足だったことにさえ気付かなかったのだ。
 ……ひょっとして…………かなりヤバイくらい進行してるんじゃあ……?
 彼女は青ざめる。
 もし、こんな事が毎日続いたら……
 それ以前に、なんて言おう、親に。
 ……入れてもらえるかな……家に……
 ………………………………………………(ーー;)(考)
「ふぇっくしゅっ!!」
 彼女は盛大なくしゃみをした。
 ……とりあえず、帰ろ……寒いし。
 ずずっ……
 鼻水をすすりながら、反転し、家のほうへと歩き出す。
 ていうか、家から出たって事は、どっかを開けて出たって事だし……
 どっかが開いてるわよね、多分。
 バレずに家に入れば問題ないし、バレる前にとっとと帰……?
 先ほど立ち止まったところから、二つほど進んだ街灯の下で、彼女は立ち止まった。
 この先は少し街灯が途切れている。
 その暗闇の中に、なにやらあやしい赤い光が二つ並んでいる。
 車のテールランプなどではない、ほとんど目線の高さである。
 ……も、もしかして……人魂とかいうやつじゃあ……
 やがて、その二つの光は、彼女のほうへとゆっくりと近づいてきた。
 ……に、逃げなきゃあ!!
 彼女は反射的にきびすを返し、逃げようとした……
 が、彼女は逃げられなかった。
 ……まるで、周りを何かの壁に阻まれたように、身動きが取れなかったのである。
 なっ?! 何なの? これは!!
 彼女がじたばたもがいているうちに、赤い光はすぐそこへと近づいていた。
 かつ。かつ。かつ……
 ……足音?
 恐る恐る後ろをふり向くと、なんとなくだが、長髪の女性のシルエットらしきものが見える。
 どこにでもいそうな、見たところ大学生くらいと思われる女性。
 しかし、その女性の瞳は、とても鋭く、燃える炎のように真っ赤だった。
 闇に映る二つの赤眼は、いやでも不気味な空間を演出していた。
 やおら、女性は立ち止まった。
 彼女はその女性と対峙した。
 赤眼の女性からは、街灯の下にいる彼女は丸見えであるが、その彼女から見れば、女性の姿は足元くらいしか見えない。
 ただ赤い、炎のような目だけが、街灯の光に反射し、こちらをじっとにらんでいる。
 相手の考えていることがわからず、これからどうなるのだろうという不安感、恐怖感。
 彼女は、体をそれらに支配され、全く動けなかった。
 ……そう思い込んでいた。
 やがて、女性は、唐突に低く、暗い声でつぶやいた。
「……あなたを……、殺します……」
 ……え? どういう…………
 そう思った刹那、彼女の視界からその女性の姿が消え、同時に、一陣の風が吹いた。
 ぐも!
 くぐもった、気色の悪い音があたりに響いた……
 ……胸が…………熱い…………?!
「………………ぐっ?!」
 彼女は力なくうめくと、そのまま道路へとくずれ伏した。
 おそらく彼女は、一体何が起こったのか全く理解できなかったであろう……
 そして、これから先、彼女がこのことを理解できることはなかった。
 ……胸のあたりをそぎ取られ、大量に赤い血を流していた。
 ……ほぼ即死だった。
 鮮血は、あたり一面を真っ赤に染めていた。
 その後ろでは先ほどの女性が、右手を赤く血で染め、無表情に佇んでいた。

「……2人目……」

 To be continued...



・あとがき
 記念すべき第一作目、赤染の甼序章をお送りしました。
「あああ! あの人じゃん!?」……とか
「なんだよー話見えてるじゃんー」……とか、あんまり思わないでね。
 ちゃんと、その辺は一筋縄では行かないようにするんで(くくく……)<あやしい



・次回予告 第一話「眠女(すりーぴーうーまん)」
 さぁーて、眠女は誰のことでしょうか?
 ……予告になってないし……

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