赤染の甼 第一話 「眠女」


第一話「眠女(すりーぴーうーまん)」 Ver.1-02 <2000/06/28>


 6月30日(金) 朝7時02分。
 柏木家。

 ……ルルルルルル。
 ……ルルルルルル。
 ……ルルルルルル。
「はいはーい」
 ……ルルルルルル。
 ……ルルルル……
 がちゃ。
「はい、もしもし、柏木ですが、……はい?
 ……あ、芹香さんですか? おはようございます。
 千鶴お姉ちゃんですね? はい、ちょっとお待ちください」
 どたどたどた……


 がらがらがら。
 千鶴の部屋の戸を開ける初音。
「千鶴お姉ちゃん、芹香さんから電話だよ、起きて」
「……え……、でんわぁ〜?」
 初音の言葉に、千鶴は、眠い目をこすりながら身を起こした。
「はい、芹香さんから」
 言いながら、初音は千鶴に電話の子機を手渡す。
「……もしもし……? ……おはよう……、はい?」
 いまいち眠気の覚めないまま電話に出た千鶴。
 さらに、芹香の声が小さすぎ、話があまりよく聞こえない。
「……え? なんですか? もしもし? あ、ちょっと待って……」
 ぴっぴっ。
 千鶴は、電話機の受話音量を最大に上げる。
「これでOK、もしもし……」
「かあああああーーーー!!!!」
「?!!」
 突然の叫びに、おもわず電話から顔を離す千鶴。
「まったく、だらしがないですなぁ……!」
 聞こえてきた声は、芹香の声ではなく、初老の男の声だった。
「セ……セバ……もとい、署長? お、おはようございます」
「……言っておきますが……千鶴殿、私は執事ではありませんぞ
 れっきとした神津警察署の署長ですぞ」
「……いや、あー、はい、むろん心得ています……
 で……、署長、何か?」
「コホン。そうだった、実は今日未明、市内で妙な事件が起こりましてな……詳しいことは芹香君から説明してもらうが……
 とりあえず、芹香君に代わる……」
 ……署長は一体何の用で電話に……?
「…………(お電話変わりました)」
「あ、芹香さん? 早速だけど、その事件の内容は……?」
 芹香の話した(正確に言うとつぶやいた)事件の内容はこうであった。

 千鶴たちの住んでいる神津(こうづ)市、その西部に、旭台という住宅団地がある。
 事件は、その一角で起こった。
 道に大量の血液が散乱していたのである。
 それらは、ゆうに致死量を超える量だった。
 しかし、その場所に、あるべきものが見当たらなかったのだ。
 ……散乱していた血液の源、すなわち、被害者の体が。


 朝ご飯もそこそこに、いそいで車に乗り旭台に出かける千鶴。
 ……うみゅ……ねむ…………くぅー……(爆)


 作者注『運転中は絶対に寝ないように、確実に事故りますよー』


 7時51分。
 大体30分ほどで到着。
 すでに、パトカーが5台ほど現場に到着していた。
 あちこちに見受けられる警察官に混じって、刑事課の千鶴の部下の姿も見受けられる。
「……おはよう……琴音……」
 車から降りた千鶴は、とりあえず近くにいたふじ色の髪の女性――姫川琴音にあいさつをする。
 琴音は、声のしたほうを振り向き、うなだれた千鶴の姿にうろたえる。
「お、おはようございます……
 ……大丈夫ですか……千鶴課長? かなり眠そうですけど……?」
「……んー……なんとか……、車の中で寝てたから、さっきよりは……」
「……く、車の中???」
睡眠運転……」
 言って、千鶴は、苦悩の琴音をのこしたまま、とぼとぼと現場のほうへと近づいていく。
「……睡眠運転? え……? どういう……???」


「おはようございます……」
「おはようさん、課長」
 機械的な無機質な声と、活発的な関西風のニュアンスを含んだ声が、同時に千鶴の耳に入る。
 セリオと保科智子である。
「……おはよう……」
 千鶴は相変わらずの、ローぎみなあいさつを交わす。
「……どないしたん、課長? えらい眠そうやけど……」
 いつもと違う千鶴の姿に、智子は心配そうな(?)声をかけた。
「……なんか睡眠不足ぎみで……、昨日はいつもどうり寝たんだけど……」
 言って、千鶴は大きなあくびをひとつ。
「先週もそういうことがありましたね」
 思い出したように言うセリオ。
「……そういえばそうやな、たしか会議中に居眠りして署長にえらい怒鳴られてた……」
「わたしがどうかいたしましたかな?」
「うわあっ?!」
 背後へいきなり出現した署長の姿に、思い切り身を引く智子。
 しかし署長は、その様子を全く気にすることなく、そばの千鶴が目に入った刹那、
「……千鶴殿……、ようやく到着されましたか……
 ……全く、近頃の若いものは時間というものに……」
 と、うなだれたままの千鶴に向かってぐちぐちと説教をはじめた。
「……あぁ、始まってもうたわぁ……署長の小言……」
 これが始まると10分は止まらない。智子は頭を抱えた。


「……まだ終わらへん……」
 小言スタートからすでに5分経過。
 まだまだ署長は言い足りないようである。
「……であるからして……ん? 千鶴殿? 聞いておられるのか? 千鶴殿!」
 署長は、千鶴がさっきから顔をうつむかせたまま全く動かず、なにも言ってこないのにようやく気付く。
「……千鶴殿!! 柏木課長!!
 署長はイライラしながら名前を呼ぶが、千鶴は相変わらず、うんともすんとも言わない。
 その異変に気付いたセリオは、千鶴の顔を覗き込んだ。
 そして、一瞬険しい表情をしてから、やおら署長のほうに向き直り、
「……熟睡してます」
 と、静かに告げる。
「……ちぃ……づぅ……るぅ……どぉ……のぉーーー!!!(怒)」
「……あ、やば……」
 危険を察知した智子とセリオは、こっそりと安全なところへと避難する。
 さすがに、署長の怒りのオーラに気づいたのか、千鶴はふと目を覚ます。
 目の前に署長がいることにようやく気付き、一言、
「……あ、署長……おはようございまふ……」
 半分眠ったまま、気の抜けた挨拶をする。
 どうやら、自分の置かれた状況をまったく理解できていないようである。
 ぷちぃ。
「かあああああああぁぁぁぁぁっーーー!!!」
 どがしぃ!!
「あぶぇ――――――〜〜〜!??」
 怒り爆発。署長の放った必殺パンチが見事に命中し、千鶴はきれいに放物線を描き、初夏のすがすがしい朝空をふっ飛んでいった。


「……元気でなぁ、課長ぉ!」
「あのまま地面に落ちたら、82%の確率で死亡しますが……」
「………………あ、落ちた ・_・;」

 To be continued...



・あとがき
 ようやくLeafパロ小説といえるようになりました。
 いんやー、もう近頃忙しくてねー。
 ちなみに、打ち切りはしない方針です。
 何年かかっても完結させる!!



・次回予告 第二話「奇件(仮)」
 千鶴はわずか18%を生き残れるのか!!
 署長ははたして殺人未遂か過失致死か!!
 目撃者約二人の運命は?!


 ……予告と実際は違う可能性があります……
 ていうか絶対ちゃうって!


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