赤染の甼 第二話 「奇件」


第二話「奇件」 Ver.1-00 <2000/07/23>


 朝、8時27分。
 現場近くの路上にて。

「とりあえず、今のところの捜査状況はどうなっていますか?」
 さっきの衝撃で、千鶴の眠気は完全にさめたようである。
 刑事課一同を一か所に集め、ようやく課長としての威厳が出てきた。その矢先、
「……あ、あのぅ……、ちょっと……」
 正面にいたマルチが、千鶴を心配そうな目で見ながら言う。
「どうかしたの? マルチ」
「え、えと……首が、なんだか不自然に曲がってますけど……」
「まあ……いろいろあって……、そのうち……何とかなおるでしょう……」
 いいながら、ぎこちない笑みを浮かべる千鶴。
「は……はぁ……」
『(よく生きてた……課長)』
 目撃者SとTが同時に思う。
 ちなみに当の加害者は、とっくに神津署へと帰って行った。


「ぶうぅえっくしえぃっ!!」
 署へと帰る車の中、署長は盛大なくしゃみをしていた。
「……う〜む、誰かこの私の噂をしておるな……」


「え〜と、報告しますが……、始めてよろしいですか?」
「どうぞ、志保さん」
 千鶴の声に、志保は話をはじめる。
「えー、まず被害者ですが、この近くの旭台中学校の生徒、黒峰あすかさん(14)のものだと思われます」
「身元がわかったってことは、本人が発見されたってこと?」
 眉をひそめた千鶴が聞く。
「いえ、まだ発見されていないです。
 ご両親が、朝方あすかさんがいないのに気づいて警察のほうに110番したそうです。
 で、その際この事件のことを知って、一応血液型の照合をしたら、ここに散乱していた血液と同じO型だったということです」
「なるほど、それはほぼ間違いなさそうね……
 そういえば、この事件の第一発見者は?」
「ジョギングで通りかかった、53歳の男性です」
「そのときの状況は聞いてる?」
「状況は今と変わりません、道が血だらけなのに驚き、あわてて警察に通報したと……
 その通報が5時50分ごろです」
「……ふうむ……」
 千鶴は視線をふと現場の方に移す。
 現場はごくごく普通の、幅員2.5mほどの団地の道路。
 その道のとある街灯の下が、問題の事件現場だった。
 街灯の真下から半径2mほどの範囲、道路のアスファルトから、脇の民家のブロック塀や電信柱まで、かなり量の血が散乱していた。
 まるで、人をレモンのようにしぼったか、そこではじけてしまったような感じに……

「で、今最大の問題は、被害者……あすかさんが生きているのかどうかだけど……」
「(その望みは薄いと思います。現場を見てもらればわかりますが、この血液の量は完全に致死量を越えています)」
 静かに言ったのは芹香だった。
 声が小さいので、まわり一同耳に神経を集中させている。
「(鑑識のちゃんとした調査結果はまだですが、おそらく全て同じ一人の血液に間違いないであろうということです。
 問題は、何故ここにその死体がないのか……なんですが……)」
「被害者が何とか自力で逃げた……という可能性は?」
「(無いともいえませんが、これだけの出血だと、間違いなく貧血でまともに立てないでしょう。
 したがって地面を這って行くことになりますが、それでは道路に間違いなく血痕が残ります。
 それに、たいして進まないうちに力つきてしまうでしょうし)」
「……犯人があすかさんをつれてどこかに行ったか……
 というか、犯人は何の目的であすかさんを殺害した……いや、しようとしたのかしら……?」
 被害者まだ亡くなったとは限らない、千鶴は言葉を変えた。
「それ以前の問題……根本的に言えば、どうしてあすかはんはこんな場所におったのかや……しかも真夜中に……」
「……そうね……
 親しい人に呼び出された……、例えば親友とか恋人とか……
 その辺はどうなってるのかしら?」
「あ、あたしがさっき、あすかさんの両親に会って、話を聞いてきました」
 言ったのは、刑事課B班の雛山理緒だった。
 ちなみに刑事課B班は、情報収集班。おもに聞き込みが多い。
「……えっと、あすかさんは比較的まじめな中学生で、夜中まで帰ってこなかったり、夜中に急に家を抜け出したりということは一度も無かったということです。
 友達の中にも、不良みたいな人はいなかったそうですし、恋人もいなかったようです。
 学校では生徒会書記をしていて、たまに話し合いで遅くなるときも、きちんと自宅に連絡を入れていたそうです」
「なるほど……、真夜中に抜け出すような娘ではない……と
 ……そうなれば連れ出されたとかいうことは……? 戸締りはどうなってたのかしら?」
「はい、玄関や窓、全てきちんと施錠されていたそうです」
「……となると、いったいあすかはんはどっから家を抜け出したんや?」
『う〜ん……』
 その場の全員、腕を組んで考える。
「とりあえず、謎が多すぎるわね……
 みんな、もう一度聞き込み・再捜査、お願いします」
『はい!』
 千鶴の言葉に、各自また散り散りに去っていくメンバー。


 12時27分。
 喫茶 『なんやねん』にて。

 千鶴・芹香・智子の3人は、近くにあった喫茶店に、軽く昼食を取ろうと入っていた。
「……しっかし……今回の事件は一体なんなんやろか……
 過去に例のない事件やで?」
「そ、そうね……」
 智子の言葉に、若干彼女の前のものを気にしながら相づちを打つ千鶴。
「……どうかしたんか? 課長?」
「……いや、なんで喫茶店に来て、たこ焼きなのかと……」
 そう、智子の前には、白い皿に載ったほくほくのたこ焼きが置かれていた。
「いいやないか別に、メニューにあったんやから」
 言って、智子はたこ焼きをひとつ口に放り込み、
「ぉおおっ! 懐かしいっ! これこそ元祖関西風やぁ!(感涙)」
 いきなり叫び、うるうると泣き出す。
「ホンマうまいわ〜……、課長もどうや?」
「……あ……、悪いけど遠慮しておくわ……」
 なにやら決まりが悪そうに言う千鶴。
 彼女のその反応に、智子は意地の悪い笑みを浮かべ、
「もしかして、またダイエット?」
「う……、ほ、ほっといてよ……
 ……もともと太りやすい体質なんだから……」
 顔を赤らめながら、コーヒーを一口。
 そのとき、ちょうど横合いからウェイトレスが声をかける。
「失礼します、特上ヒレステーキでございます」
「……え? そんなの頼んだかしら?」
 千鶴が眉をひそめて言ったその横で、芹香がつぶやく。
「(あ、私が頼みました)」
『え?』


「え、え〜と……とりあえず、この後はどうするんや……?」
「そ、そうね〜……、とりあえず〜……、えーと……」
 二人の真横では、芹香がステーキを淡々と口へと運んでいる。
 …………………… (--;;;
「(私のことはお気になさらないでください)」
 気を利かせたつもりの、ステーキを食べる手を止めての芹香の一言。
『い〜えぇ、全く気にしてないから』
 偶然ハモった二人の声は、みごとに裏返っている。
(そ……そうはいったけど……)<千鶴
(真横にあったら気になってたまらんわ……)<智子
 ぷんぷん香るおいしそうなステーキの横。
 千鶴と智子の二人はうらやましげに耐えていた。


「けど……なんで喫茶店にステーキがあるんや?」
「そうよね……」
「失礼します、石焼ビビンバでございます」
『ええっ?!』

 To be continued...



・あとがき
 今回は恵那市絵無しです (^_^;) 
 ていうか、おそらくこれからも絵無しかも……
 だれか描きませんか? ボランティアで。ラフ画なら描きますけど。

 ……感想ないね……
 一言でもいいんで感想くれると、もれなく全部読みます(爆死)
 ここも有効活用しません? はっぽとくと社長に荒らされる……
 とりあえず、感想待ってます……



・次回予告 第三話「名前決まってへん……(仮)」
 まだ名称未定。
 けど、すでに100行近くまで書き終ってる。 
 ……姑息なことしたしね……
 暇あれば今週中に……<可能?
 題名考えるのに一月かかったりして……<あほ
 あんれ? 予告になってない……

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