赤染の甼 第三話 「従来」


第三話「従来(じゅらい)」 Ver.1-00 <2000/08/19>



 夜、8時14分。
 柏木家。

「ただいまぁ……」
 玄関の戸を開け、千鶴は気だるい声で言った。
「あ、千鶴お姉ちゃん。お帰りなさい。
 夕飯まだでしょ、温めとくね」
 居間から出てきて、玄関に顔を出したのは初音だった。
「……ありがとう、初音ぇ……」
 やはり気だるい声でこたえる。
「……どうかしたの? なんか顔色悪いよ?」
「なんだか、とても眠くて……」
 言って、あくびをひとつ。
「疲れがたまってるんじゃない?」
「……そうかしら……、特に仕事が忙しかったというわけではないんだけど……」
「とにかく、今日は早めに寝たほうがいいと思うよ」
「……そうね……」


 夜、9時23分。

「おやすみ……」
「おやすみ、お姉ちゃん」
「おやすみー……?」
 ……ばたん。
「千鶴姉、今日は特に寝るのが早いな、いつもなら11時ごろなのに」
 せんべいをかじりながら、テレビを見ていた梓が、ふとつぶやいた。
 一応、千鶴の様子が気になったらしい。
「今日、なんだかとても疲れてるみたいなの」
「……ふぅん……仕事が忙しいのかな?」
「さぁ……」



 ……深い闇に映える、街灯の光……

 ……だんだんと近づいてくる、

 ……細々としたひとつの足音……

 ……ふと、足音が止まった。

 ……何かのつぶやき……

 ……盛大なくしゃみ……

 ……そして、再び足音が響く……


 ……怯エル眼……

 ……震エル手……

 ……フ安ト恐フデ埋マル少女ノ顔……

 ……アナタヲ……、コロシマス……


 ……その直後……

 右手に、生暖かく、柔らかい感触が……・・・・・・


「……っ!……はぁ……!!」
 あまりの寝苦しさに、思わず飛び起きる。
「……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
 息は荒く、全身ひどく汗をかいていた。
 決して熱帯夜なわけでもなく、部屋はそう寝付きにくい温度ではなかった。
 ……なんなの……この……妙な……感覚……は……



 7月1日(土) 朝8時54分。
 福岡県警神津署。

「……ぼろいわね……やっぱり」
 いつもの指定場所に車を止め、正面から署舎を見上げながら、いつものようにふとつぶやく千鶴。
 築50年。
 良く言えば、長年(?)の歴史の積み重ね。悪く言えばただのボロ。
 内装こそ、近頃少しはよくしたものの、外観のボロさ汚さは全く変わっていない。
「……せめて自動ドアにしようよ……入り口くらい……」
 重い入り口のドアを押し開きながら、つぶやく千鶴。
「……大体、県は駅をあんなに立派にするんなら、こっちにも少しは建て替え予算を回してくれたって……」
 神津駅のことである。
 去年高架化され、ショッピングセンターから映画館まで入る大きな複合駅となった。
「何をつぶやいているのかね、千鶴殿」
「ひぃあああっ!? でたぁッ!!」
 突然現れた署長の顔に、千鶴は思わず叫んだ。
「出た! とは、どういうことですかな千鶴殿」
 キラーンと眼鏡を光らせ、ずずいと顔を近づける署長。
「……い、いや、その……ですね……
 ……えへっ」
 千鶴は、返答に困り、チロッと舌を出した。
「………………」
 そのしぐさを、署長はジト目で千鶴を見ている。
 その署長の姿に、千鶴は床にしゃがみこみ、地面にのの字を描きながらつぶやく。
「そーね、そーよね、どうせ、どうせ、私なんかね、23過ぎてね、こんなね、かわいらしく見せようとしたってね、無駄なのよね……」
 すると、周りから若い男の職員が駆け寄ってくる。
「どうしたんですか!? 千鶴さん!!」
「何があったんですか!?」
 その声に、千鶴は半べその声で、
「……しょ、署長が……ひく……この歳で私がぁ……ちょっとかわいげ見せただけで……ひく……馬鹿にするんですぅ……ひく……」
「い、いや、ちょっと待て! 千鶴殿!
 私は別に馬鹿にしたわけでは……うっ……
 ……す、すまなかった……」
 弁解むなしく、周りの人から発せられる白い目線に、ただ謝るしかない署長だった。


「おはよ〜!」
 千鶴は、いきおいよく刑事課のドアを開いた。
『おはようございます』
 すでにそろっていた刑事課一同が、そろって挨拶をする。
「……なんかきげんがいいですね……」
 近くにいた赤いショート、神岸あかりが言う。
「まぁね☆」
「?」
 朝のやり取りを知らないあかりは、首をかしげた。
 それを尻目に、いつもの定位置……すなわち、課長の席に腰掛ける千鶴。
 ……おもむろに手を顔の前で組む。
「課長、その格好はパクリです」
 ふと、セリオが言う。
「あ、ごめんなさい……つい癖で……
 と、とりあえず、今日の10時からの会議にそなえ、昨日の聞き込みの再整理をしたいと思います。
 芹香さん、お願いします」

 かくて、7月は始まった……


 昼、2時53分。
 神津市郊外のとある雑居ビル。

「さぁ着いたぞ、わがMy同士たちよ」
「……早乙女興信所……?
 なんか、かなりうさんくさげな名前だな……」
「……それ以前に、見た目もうさんくさいわよ……
 ねぇ……、ここ、大丈夫なの?」
「安心したまえ、古い友人の探偵事務所だ」
『”あんたの”だから安心できん……』
「問題ない」
(……不安……)
「さぁ、遠慮せずに入りたまえ」
(……遠慮……)

 To be continued...



・あとがき
 題名は適当です……(爆)

 今回も恵那市絵無しです (^_^;) <こればっか
 描く気はあるんですけど、暇が無い……
 だれか描きませんか? ボランティアで。ラフ画なら描きますけど。 <こればっか……
 今回は暇なかったので、文字効果なしです。
 ……うう……今日公開するなんていわなきゃよかった…… <公開に後悔(死)

 感想ください……お願いです……



・次回予告 第四話「新展(仮)」
 とうとう、「こみぱ」キャラが登場……
 次回からしばらくこみぱ編へと突入します。
 よって、ちーちゃんとかはしばらく出ません……
 まぁ、楽しみにしてくれるとありがたいです。

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