第四話「新展」 Ver.1-00 <2000/10/05>
「……き……汚い……」
「うぅ……くさ……」
事務所の中に足を踏み入れた俺たちの第一感想はそれだった。
窓辺の事務机の上には、カップめんやパンの食いかすの山。
床にも、なんだか丸まった紙がたくさん散乱している。
……これは俺の部屋の10倍……いや、100倍はひどいな……
「……和樹の部屋の5倍はひどいわね……」
……俺の部屋はそんなに汚かったか……?
瑞希の一言が、妙に気になった俺。
「なるほど、見事な男の部屋だな、
さすがは早乙女……侮れん奴だ」
大志のみは、人知を超えた感想を述べる。
「……って、感心してる場合じゃねーだろうが!
どうするんだよ……ここ」
とりあえず俺は、隣で感心していた大志に一言いう。
「掃除をすればよいではないか」
当然な答えが返ってくる。
「……俺は掃除をするためにわざわざ九州まで来たわけじゃないぞ……」
俺は涙を流しながらつぶやいた。
そもそも、なぜ俺がこんなうさんくさげな探偵事務所にいるのか。
そう、あれは昨日の夕方のこと……
6月30日(金) 夕方。
「今度は何のジャンルにするかな……?」
俺は自分の部屋で、今度の夏コミに出す予定の同人誌の原案を練っていた。
「はっはっは! お困りのようだな、まいぶらざぁ和樹!」
「うわぁっ!? どこから入ってきたぁ! 大志ぃ!」
俺の背後に、いつのまにか大志が立っていた。
「そこのドアからに決まっているだろうが。
そんなことより! 次のジャンルを決めかねているのなら、我輩が決めてやろう!
ズバリ! 探偵推理物だぁ!!
おまえはこれを描くしかない!」
びしぃっと、俺を指差しながら、勝手に盛り上がる大志。
「探偵推理物……? そんな知識ないぞ、俺には」
「ふっ。安心したまえ、まいはにー」
おまえの言葉に安心出来る言葉は存在しないだろう……
「我輩の知り合いに探偵事務所をやっている奴がいてな、
用事で今日から一週間ほど留守にするのだ」
「……で?」
俺は、気のない相づちを打つ。
「奴が留守の間、その探偵事務所の手伝いをしよう……というわけだ」
「……つまり、早い話が、まずは体験を……ってことか?」
「そういうことだ」
「……その間大学は……?」
「そんなもの、休めばよかろう。
わが大いなる野望のためには、そんな細かいことの一つや二つ……」
「細かくないわッ!! 俺は気にするんだよっ!!」
「……とりあえず、大学のことは安心しろ。
さっき、我輩が一週間ほど休むと大学に電話をしておいた」
「おいおいっ! また勝手なことをぉ!!
だいたい、その探偵事務所ってどこにあるんだよ」
「ふっ。聞いて驚くでないぞ
ズバリ、九州だぁ!!」
どーん!
「きゅ、九州うぅっ!?」
ピンポーン。
ん?
ピンポーン。
……誰だ……こんな朝早くに……
俺は眠い目をこすりながら、身を起こす。
……………………ねむい……
「こらぁ! 遅れるわよっ!! 和樹!!」
なんだ、瑞希か……
俺はふと時計に目をやる。
AM.5:22。
こんな朝早くに……、そういえば、なんか遅れるとか言ってなかったっけ……
……えーと……今日は…………?
…………………………ッ!!
「……あ……あぶねー……」
俺は、近くの駅のホームで、荒い息をつきながらつぶやいた。
「……まったく……バカ和樹……」
ジト目でこっちを見る瑞希。
早朝、5:56、東京駅着。
「ほらっ! 和樹っ! いそいでっ!
もたもたしてると新幹線出ちゃうでしょ!」
「……そ、そんなにいうなら……自分の荷物ぐらい自分でもてよ……」
瑞希とともに広い構内をひた走り、6:00発の博多行きのぞみに飛び乗る。
10:32、小倉駅着。
それから普通列車に乗り換えて30分あまりで、神津駅に到着。
コンコースはとても広い。聞くところによると、ショッピングセンターや映画館まではいっているらしい。
「へぇ……人口40万人そこらの所にしては、立派な駅じゃない」
「去年建て替えたらしいぞ。さて、それよりも大志の奴を探すか」
「そうね、大志はもう先に来てるんでしょ?」
「ああ、『我輩は下調べのために、先に夜行特急で九州入りする』とか言ってたからな」
俺たちは、待ち合わせ場所の噴水へと向かった。
昼、12:56。
……のやろー……なにやってんだ……?
すでに待ち合わせの時刻から1時間半経過。
待てど暮らせど大志は来ない……
「おまたせ、買って来たよ。どう? 大志来た?」
昼飯の調達に行っていた瑞希が、手にヤックの袋を持って帰ってくる。
「さんきゅー、奴はまだ来てねえよ……」
言って、俺は袋の中から、頼んでいたビックヤックを取り出す。
「えー、まだ来てないの? 全くなにをやってんのかしら……」
「諸君、待たせたな」
『うわあぁ!!』
どこからかいきなり現れた大志に、俺たちは思わず叫んでいた。
「……び、びっくりした……い、いきなり現れないでよ!」
「というか、なにやってたんだ……? 時間をすっぽかしてまで」
「はっはっは、察しが悪いな、わがまい同志よ
この袋が目に入らないのかぁ!」
言って、大志は手にした紙袋を俺の目の前に突き出す。
これは……同人誌……
「本物のオタクなるもの、約束の時間など忘れるほど同人誌をあさるなどごく当然のこと!」
いや、いくらなんでもそれはないだろう……
大志のいつもながらの勝手な理論展開に、呆然とする俺と瑞希だった。
その後、大志の「オタク講義」は、延々30分も続いた。
13:35、ようやく駅を出る。
郊外方面行きのバスに乗り、一路事務所へと行く。
しかし、大志の案内で一筋縄に行くはずがなかった……
14:52、神津市のどこかの雑居ビル前。
「おおっ! ようやく発見したぞ、まいぶらざー&まいはにー!」
「……バスから降りてかれこれ1時間は経ったぞ……」
「というか、さっき降りたバス停の正面じゃないの……」
「はっはっは。これはまさしく灯台下暗しというものだ」
『……………………』
To be continued...
・あとがき
今回もまた絵なし。
ゆっくり書くひまがなかなか無い……
もう今回は何も言うまい……
・次回予告 第五話「依頼(仮)」
まだ書いてる途中だから不明(ぉ
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