次のページ 前のページ 目次へ

6. さらなる発展?

 さて、Mutter Launcher について、現状との対比については、大体前章のような感じとして落ち着いた。しかし現状だけではなくて、今後考えられる展開との対比もその価値づけのためには大切で、それによってもっと関係が明確になることも多い。もちろん、Mutter Launcher に追加するネタにもなる(作者の時間があればね)。

 実は、そうしてランチャーの役割を位置付けてみると、emacs での shell-mode 上で、全てがバッファ内のテキストとして扱われる平面性というのは、shell 自体が持っている補完機能等と相挨って、未だに柔軟性や能力において「文字/綴り」型としてはやっぱり凄いものではないかと見えてくる(emacs の学習コストや動作コストはおいておいても。Windows では、 ComWin なんかがそういった感じに当たるかな)。

 それでも検索型では、対象の側が持っている文字列(それが登録されたものであれ)ということに限られる場合が多い。その点を考えると、よりユーザの想起をサポートする意味で、ある種の自然言語対応だって良いだろう。

シソーラス的アプローチ

「ワープロ」と指定すれば「MS-Word」や「一太郎」「Ami-Pro」「Word Perfect」がリスト化される(その辞書は最適解がなかなか難しそうだけど)

自然言語指定

「絵が書きたい」という指示に対してそれに対応するアプリションがリスト化される

 あぁ、でもそういうことだと、Microsoft BOB → MS-Office のアシスタントという「ソシアル・インタフェース」流の流れが出てきてなんとも萎えてくるものもあるけれども。

 さらには、ランチャーが起動するものの範囲や連係を広げたっていい。

ファイルからの関連アプリの起動

既に、Windows なら拡張子への関連づけ、Mac OS だったら各ファイルのタイプとクリエータ情報で、これは実現している。

Web サイト

これも既に実現済。形態論のところで出てきたのをそのまま当てはめれば、Web ブラウザでの URL 指示部分などは見事に UNIX シェルの適応戦略を模倣してきたといえる。

各種検索への連係

例えば Mutter Launcher でいえば(手前ミソ…)、検索する範囲はローカルにあるものではなくて、インターネットのもの(検索や辞書サイトへのプロキシー)でも良いんだし、あるいは名前や概念に拘らずファイルの中身への grep だっていいわけだ。この例が手前味噌過ぎるので、別な例を挙げれば、Internet Explorer や Netscape Navigator は、いつのころからか URL に指定した文字列がアドレスとして認識できない場合には、それを検索サイトに渡すようになってきているという広がりの例ならば、より多数の人が経験していることと思う。

あるいは…

今より常時接続が当然な環境になった場合には、ランチャーとして起動/召喚する先は単に Web サイトということだけではなく、いわゆる ASP 形態のアプリケーションだっていいわけで、もしかしたら来年ぐらいには Office は時間売りで ASP の形へのショートカットがインストールされることになるかもしれない。あるいは、それはいわゆるアプリケーションや Web サイトではなくて、テレビ番組なのかもしれないし。とかね(まぁ、Microsoft が特に Windows のデスクトップを、COM と絡ませて HTML & Web への透過性を目指して以降邁進している道だけど)。

 後で知ったけど、Mac OS に附属のアプリケーションの 「Sherlock 2」が、こういったデスクトップ上へ呼び出し可能なリソースへの一元化した入口を用意していて、使い勝手もなかなか良い。

 そう考えると、実は「ランチャー」という言葉自体がとても坐りの悪い言葉だということに気がついてくる。言ってしまえば「ランチャー」というのはどちらかといえば開発者側の言葉なんだと思う。

 一面だけ見れば確かに「発射=起動」することなんだけど、ユーザの一連の中で起き直して見れば、その役割は画面/デスクトップ/プロセス空間にある物(オブジェクト)を召喚することなんだと置き換えることができる。「What do you want to launch?」ではなくて、「Where do you want to go?」でもなくて「What do you want to bring?」なんだと思う(この方が、あくまで世界の部分集合を持ってくる覗き窓という語感がでると思う)。

 なんだ、そう考えると、結局のところデスクトップのポータル争いという気もして来た…

 前では「自然言語認識」的な話になったけど、そんな複雑な話でなくても、ボタン/メニュー型の階層管理(特にスタートメニューにいえることなんだけど)で、もっと単純で、より効果的(かも知れない)対応策はあると思う。

 別に、凄い発想ではなくて、たんに今の主にベンダーによるジャンルに加えて、種類によるジャンル分けをユーザに表示することだけで、初心者には少しは違ってくるんじゃないだろうか。つまり、「Word」じゃなくて「ワープロ」や「書類作成」といった言葉を想起する人への支援ということと、管理と通常使用が一緒くたの内容(例えば、いつでも「アンインストール」という項目が見えるというノイズ)を分けるということだ。

 そういうのは、例えば「〜ホーム」とか、メーカーのプレインストールマシンに付いてくる独自デスクトップといった形で試みが続いているけど、今一つ成功しているとは思えない。これらは、何といっても新しいソフトのインストールに自動的に追従していけない、閉じた世界のものなのが痛い。

 そうなってくると、標準である「スタートメニュー」が、種類別表示といった感じでそういったものをサポートする意義は大きいと思うのだが・・・(当然、各ベンダーへのインストール指針やその対応も必要だけど)。まぁ、自分で辞書を持って現在のディスク内容などから自動的に分類分けや一覧作成といったことをすれば、先の初心者向けデスクトップや各種ランチャーでも結構なことはできると思う。

 と、そんなことをいろいろと考えたりして、こういった機能のいくつかは Mutter Launcher への実装も考えたけど、個人的なコスト(ここでは作るコストも入る)が見合わなかったことで当面は没になった。

 そして、これが作る側の動機付けとしては一番重要なんだけど、こういった「ランチャー」の範囲を考えてみてもニッチな欲求を満たすものとして現状ではその存在意義があるし(個人的にはもちろんだけど、現状としての他との差別化)、カバーするものが当面は出てこない(出てくる価値がない?)ようだし、という結論にも至ったことも、Mutter Launcher 作成の気持ちをドライブさせる原動力となった。


次のページ 前のページ 目次へ