はじめに


 皆様は「黄金の三角地帯」や「黄金の三日月地帯」という言葉をご存知だろうか。

 普通に暮らしている以上はなかなか耳慣れない言葉で、世界の稲作地帯かゴールドラッシュの跡地のように思われるかもしれない。しかし、これは何を隠そう世界有数の麻薬・覚せい剤の生産地である地区を示す用語である。
 黄金の三角地帯とは即ち東南アジアのタイ、ミャンマー、ラオスのメコン川に接する山岳地帯を有する三国にわたる大三角地帯であり、黄金の三日月地帯とは、アフガニスタン、パキスタン、イランの国境付近を結ぶ三日月形の地点である。

 現在、黄金の三角地帯こと、タイ、ミャンマー、ラオスの三国ではそれぞれ政権が安定し、麻薬・覚せい剤の撲滅を目指して麻薬の代わりに、「茶」や「コーヒー」を代替作物として植える運動が続いている。もちろん、農民にしてみれば単純に栽培する分には麻薬のほうが圧倒的に利益があがるため、依然として現在でも違法な麻薬栽培が続いている。しかし一方では、高級烏龍茶ブランドの開発などで成功した例もある。

 また、黄金の三日月地帯という言葉を象徴するニュースが数年ほど前から世界に流れている。皆様はお気づきだろうか。それは、アフガニスタンでアヘンの栽培が非常に盛んになっているというニュースだ。2005年の時点でアフガニスタンにおけるアヘン生産量は世界の87%、そしてアフガニスタン人口の10人に1人はアヘンの取引に関わっており、取引金額はアフガニスタンの合法的なGDPの52%であるという非常に驚くべき数値を示している。このような状態ではおよそ「健全な経済発達」は望めない。影響は経済だけにとどまらない。それ以上にアフガニスタンの一般人もアヘンに毒されている。2006年の発表ではアヘンの中毒者は数えられただけでも92万人、その数はアヘンの大量生産によるアヘンの低価格化でますます増加すると考えられている。アメリカとの戦乱を終え、国を再建するはずの貴重な人の力がアヘンで奪われている。そのため、国連をはじめ各国が後手後手ながら対策に追われている。アメリカの強硬派などは「ケシ畑に毒を蒔く」とまでも発言している。実際は灌漑による優良な農地の増加と、農民に対する啓発活動、代替作物の植え替え推進などが行われている。アフガニスタンでは麻薬対策省を設けるなど、この事態の収拾に追われている。
 
 このような事態に陥った原因は何かというと、その大きな原因のひとつにタリバンをあげることができるだろう。アヘンは換金性が高く、持ち運びもしやすい。また、いざ戦場ともなれば鎮痛剤にも利用できる。ここまで言えば察しがつくだろう。そう、アヘンはタリバンなどの武装組織や軍閥の軍事費調達のために使われているのだ。
 農民にしてみてもメリットはある。換金性の高さは言うまでも無く、アヘンの原材料たるケシは悪条件下でも耐える。アフガニスタンが旱魃に襲われたときでも、アヘンの生産量だけは増えたという話は非常に象徴的である。農民としてもケシの栽培は安定した収入を手に入れる手段となっているのだ。ケシの代わりになる作物が見つからない限りは、現実問題としてアフガニスタンをアヘンの工場でなくすのは難しいだろう。

 アフガニスタンで作られたアヘンの60%は近隣諸国で消費され、残りは欧州に流れているという。日本でも北朝鮮産の麻薬が問題になっている。まさに国際的な取り組みが必要とされる問題だ。


 さて、この問題を「他国で起こっている対岸の火事」として見てほしくないと私は思っている。実はアフガニスタンのようなアヘン事情に日本が、その昔大いに関わっていたのだ。それは、決して重箱の隅をつつくような些細な問題ではない。我々が目をそむけているだけで、実に歴史の深いところに浸透している。しかもアヘン事情は一種の歴史の普遍的法則として深く知るべき問題なのだ。

 前置きは長くなったが、本研究は不肖ながら私が卒業論文でかいたことを再編・加筆修正したものをアップしたものである。その意義は自分自身に対する挑戦もあるが、社会に対して議論を呼び起こす呼び水になるか…あるいはみんなに知ってほしいという単純な思いにある。戦争犯罪として糾弾する気はさらさらない。どのテレビでも、どの教科書でもなかなか取り上げられることの無い日本軍とアヘンの関係を、私は知識と文章表現能力が不十分であることを重々承知しながらもここに発表したい。多くの批判を受けることも覚悟しているが、それこそが私の望みであり、短い期間ながら研究をしたことに対する社会からの「見返り」ではないかと思っている。最後に、卒業論文に最後まで付き合ってくださったゼミの先生にこの場を借りてお礼を申し上げたい。もしもこのページをご覧になったら、きっとお笑いになるとは思うが…

 では、ここから先は長くなるので興味の有るかたはぜひ読んでいただきたい。現在、同時平行として「張飛の強烈講座」も執筆中で、できるだけわかりやすくこの論文の要旨と私の思いを表現したいというコンセプトの下で進めている。願わくば、この論文がみなさんの知的好奇心を揺り動かし、日中韓のますますの友好推進に役立てますよう…心より祈る。

2007年9月14日  バブジャブ・マトゥイ

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