その笑顔を、可愛いなんて思ってしまったことに、
とても苦いものを感じていた。
【8】を背負う男 -3-
「…気づいてたんだ」
「うん、でも良かった」
「…え?」
「変な奴じゃなくて」
君がいつも座っていたところに、今日は俺も座ってる。
雨に当たらないためには、このスペースは少し小さくて、
腕から感じる君の温もりは、意外なほどに温かかった。
「それって俺が普通だってこと?」
「…貴方の言う普通って奴が、私の言う変な奴、だと思うけど」
…どうして君は、僕の望む言葉をそういとも簡単に紡いでしまうんだろう。
その日の昼休みはそれだけ話して、君は授業に出るからと戻っていった。
俺はもう少し、この雨を眺めていたいから、と君を見送った。
本当は雨じゃなくて、その先に浮かぶ君の幻影だけど。
きっと君は「良かった」なんて言えなくなるよ。
俺のこんな苦い気持ちを知ってしまったら。
それ以来、君と時々話しをした。
君はいつも屋上の、あの曇りガラスの奥にいるってわかっていたけれど、
俺が練習とかで休むから、俺たちは時々、話をした。
でもそれで良かったと思う。毎日会っていたら、きっと君は来なくなるから。
「ねぇ、ママドール、よろしくね」
「…は?」
それから君と何度か同じ季節を過ごして、
それが僕にとって普通になった、そんなある晴れた日の昼休みだった。
俺が屋上のドアを開けると、君は青空をバックに少し笑ってた、きっと此処では俺にしか許されていない笑顔。
今日はどうかしたの? と聞いたら、そんな返事をしてきたんだ。
「あら、福島の銘菓なんだけど」
君ってしれっと凄いこと言うよね。
俺は明日から東京選抜の合宿で、3日間福島に行く事になっていた。
でもそんな事は担任にぐらいしか言ってないし、
君にとって俺は”サッカーの上手い人”程度の認識だと思っていたから
どこで聞いたのかそこまで知っていたことに、少し驚きと、少し嬉しさを覚えた。
「わかったよ」
それで今日の会話が終わっていれば、
きっと俺は結人たちに同じこと聞かれるぐらい上機嫌で行けただろうに、
君は珍しく、俺の予想しない言葉を言った。
「そうそう、あと”杉原”って子いたら、よろしく言っといて」
よろしく、と言うくらいだから、きっと選抜に選ばれた奴で、
よろしく、と言うくらいだから、君の言う”変な奴”じゃないんだろうけど、
君に”よろしく”なんて言われる奴に、俺がよろしくなんて言えるわけないだろう?
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うひゃー1年から3年にとびました(大汗)。なのにこの薄い関係はなんだー!!(ノ>_<)ノ ~┻━┻
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