私たちが「住吉屋」という店の近くにくると、すでに乱闘のまわりは人ごみとなっていた。
「ちょいとごめんよ…ほら、さん、こっちぜよ」
「うん…」
人ごみを分け入ると、数人で数十人の力士を相手にしてる「みぶ浪士」の姿が見えた。
「…女の子もいるんだね」
「おお、わしも今さっき知ったんじゃが、なかなかのはちきんでのぅ」
「はちきん…? あ…!」
そこで、前の方で見ていた子供が押し出されて、乱闘に突っ込みそうになった。
「あぶない!!!」
「お、おんし…!」
「ていっっ!」
「おわ…!」
ど、ど、ど、ど、どーん!!!
子供にのしかかりそうになった力士をどんと突き飛ばすと、偶然にも数人の力士が将棋倒れになってしまった。
「あはは…」
「こ、この女――!」
「甘い!!」
どーん!
「さん…おんし…」
「まだまだー!」
「うわー!ど、どすこーい!」
「ちきしょーー!! なんでこんなことに!!」
「どわー!」
「先生とデート中だったはずなのに!!」
「ぎょえーー!!」
「…さん…戦うと人格変わる人やったがな…そんにしても…なかなか…」
「ひぃ〜っ退散だ!!」
「はぁ…はぁ…」
「…あの、あなたは…?」
「え!?(しまった、つい憂さ晴らしに…)」
「なかなかの戦いぶりだったぜ、あんた」
「原田さん」
私がすっかり自我を忘れて戦ったあと、気がつけば「みぶ浪士」らしい人たちが私を見ていた。
「ああ、なんで助太刀してくれたは知らないが、礼を言うぜ」
「い、いえ…(変な鉢巻の仕方…)」
「ふむ…礼ついでに、浪士組で預かってくれんかのぉ?」
「え!?梅さん!?」
「なかなか腕もたつし、別嬪じゃ。文句ないじゃろ?」
「まぁ…土方さんあたりに聞いてみる必要もあるが…」
そのとき、鉄扇で戦っていた一際目立つ男がこちらを向いた。
「ふん、俺が認めよう」
「芹沢さん!?」
「文句でもあるか?」
「・・・・・・」
「娘、名は?」
「…です」
「ふん…励むことだな」
「はい…(ってつられて言っちゃったよ)」
すごい圧迫感…強いな、この人…それより…
「(梅さん! なにぬかしるんですか一体!!)」
「(いい機会ぜよ。おんし、なかなか腕はたつし、ぴったりやか)」
「(えぇ? だってこの人たちも、人切ったりするんでしょ?!)」
「(そりゃそうやが、見たじゃろ? 力士相手に刀を使わんかった、筋は通った奴らじゃ)
「(・・・・・・・・)」
確かに、刀をさしてるのに、まったく抜かなかった。それになんだか楽しそうで…
「さーん! 行きますよ〜!!」
「え゛!?」
「ほら、はよ行き!」
「梅さん!あの、ありがとう!」
「そのうち様子見に行くき、元気にしとうせよ!」
そうして、私は一緒に大阪で本拠としている館に戻った。
本拠地は京都の壬生だから、壬生浪士組らしい。
帰路で、唯一女性隊士だという鈴花ちゃんに色々教えてもらった。
もともと道場は男の人ばっかりで、こんな男所帯には慣れてるけど、
見ず知らずの世界で女性がいなかったらだいぶ苦労するだろう。
こんな優しくて可愛い女の子がいてくれて、本当によかったと思う。
「で、おまけも有り、ってわけね〜」
帰還後、一連の流れを幹部に報告する際、私も紹介された。
「…です。よろしくお願いします」
「う〜ん…君、腕前はどれくらいなの?」
「えっと…剣ではなく古武術なんですが…(あれ、でも確か生まれたのは今頃だったっけ!?)」
「ふ〜〜〜ん」
「(あぅ…明らかに怪しまれてる…服装も普通じゃないしなぁ…)」
「近藤さん、俺ゃ近くで戦ってたが、なかなかの腕だぜ」
「でもな〜〜〜」
「局長」らしい近藤という人は、だいぶ私を入れたくないようだった。
やっぱり、梅さんを頼って別をあたった方が… そう、私が諦めかけたとき、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「これ以上女の子がいてもな〜」
「平助くん…!!」
その小柄の隊士の言葉に、私はぷっつり切れた…。
「いいだろう、試験でもしてもらおうじゃないか」
「…さん…!?」
「そこのちっさいの! お相手願おうか…!」
「ち、ちっこいって…っ」
「近藤さん、どうすんだい?」
「はっはっは、お手並みみせてもらおうじゃないか…なかなかいい目をするよ、彼女」
ふふ…と笑った近藤の了承の元、私は即興の試験を受けることになった。
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