第10話 |
「おんや、似たもん同士が歩いちょるのぉ」 そんなふうに梅さんに声を掛けられたのは、ちょうど角屋の様子を伺おうとしたときだった。 「う、梅さん!」 そう、私は今齋藤さんについて、監察方の勉強中なのだ。
齋藤さんは山崎さんと比べると、本当に寡黙で、まさに監察ってかんじなんだけど、ほんとに寡黙すぎてイマイチこの人の性格がよめないでいる。
「…」 齋藤さんが町民を装う私ではなく、本来の私に声をかけてくれたのは、屯所に戻る途中の、橋の下だった。 「…何がだ?」 こうやって、仕事で出かけたあとは大体反省会のようなものをする。 「のこりの八十点は…?」 きけん…? 危険って言ったの? 「…でも、梅さんは…、恩人なんです」 梅さんは、監察方に目をつけられるほどの人物なのだろうか。 「理由を、教えてもらえませんか」 私はまだまだ新入隊士で、確かにおれそいと秘密を教えられないのもわかる。 「齋藤さん…、だったら、私は梅さんとこれからも同じように接します」 胸に、ぐっときた。ぐっと、息がとまって、目が涙がこぼれた。 「きっと、きっと、齋藤さんはいい人だと思っていました。私は確かに監察方としてまだまだですけど、だけど、やっぱり…!」 そういって、私は走り出してしまった。 「!行くな!」 そう聞こえたけど、川縁を駆け上って、私は聞こえないふりをして走り去ってしまった。 私が一方的に信じていただけで、彼は微塵も信頼などよせていなかったのではないかと。 そんな現実を受け止めるのが怖くて、逃げてしまった…
この、世界にきたときのように… あのとき先生が、やっぱりやめようといって、君なら一人で大丈夫だといって、それで…
ぽろぽろ、涙がでてきた。
あのときのこと、そして逃げてしまった自分を思って。 あのとき、少なからず私は思った。それ以上聞きたくない、約束を破られるくらいなら、消えてしまいたいと。
そうしたら、この世界にきて。そしてまた私は逃げてしまった。
ぽろぽろ、ぽろぽろ、涙が止まらない。 自分に泣いている自分が、さらに虚しい…。 腕も認められて、居場所も与えられたのに、また逃げてしまう自分が悔しい… 男になんか負けないといきあがって、自分に負けてる自分が悲しい…
ドン、と人に当たった。 にじんだ視野に、刀が見えた。 あーあ、これでばっさり切られて終わるかな、と思った。 なのにぜんぜん、戦う気も、逃げる気も起きなかった。
「あぶのうて、見てられんぜよ」
ぼす、と、顔が服に押し付けられた。 ゆるやかに、温かみが伝わってきた。
「…梅、さん」 「…歩きながら泣くなんて、なんちゅう荒業じゃ。女子な泣くんは男の腕ん中って決まっちょろう」 「……ふふ」 「なんじゃ、わしはまだ面白いこといっちょらんぜよ、これからわしの腕の見せ所やちゅうに」 「…梅さんは温かいね…」 「おんしも温かいじゃき」 「…そう?」 「そうじゃ。男の胸なんかより、よっぽど温かいにきまっちょろう、みんな女子の腕で育っちゅーんじゃから」 「…私も、いつか…そう、なれるのかな…」 「おまんのなりたいとおりになれるぜよ。なんたってこのわしが見込んだ女子じゃき」 「…ふふ」 「なんじゃ、わしじゃ不満か?」 「そんなこと、ないよ」
そういって、やっと私は顔をあげられた、ちょっとはにかんで。 「…ひどい顔じゃ!」 笑った梅さんの顔が、まぶしく見えた。
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泣きたいときだってあるの、だって女の子だもん☆…てなかんじで 続きます、もちろん、齋藤さんが放置されてますもんね^^;; 監察方のしゃべり場に橋の下を選んだのは適当です(おい)。 確かるろ剣で桂さんが隠れていた気がするので、きっとよいだろうと(笑)。 2005.11 up| メニュー|サイトTOP | |