「新選…組?」
その名前を聞いたのは、山崎さんと市中探索から帰ったときだった。
その日浪士組は、長州鎮圧で仙洞御所前の警備をしてたらしいんだけど、
この褒美に、名前と京都市中見回りの任をもらったらしい…。
新撰組…
今の時代が江戸時代ってことはわかってたけど、もし私の記憶が正しいのなら…
っていうか本当に今が私の知っている過去なら…
新撰組は幕末の動乱で幕府方について負けていった、いわゆる賊軍だ…
そんなところに、私…
「くん」
「こ、近藤さん…(近藤勇…そういえば、聞いたことあるような気もする名前だ…)」
「これで君も堂々と視察にいけるってもんだな」
「…はは、密偵の顔がわれちゃだめでしょう」
「おお、それもそうだな、はっはっは!」
「…(近藤さん、すごい嬉しそう…。そりゃそうだよね、彼が…彼らがこれまでどれだけ頑張ってきたか、知っているもの…)」
「ん? どうしたんだい、黙り込んで」
「あ、はい…すいません、ちょっと気が散しているようです、少し休みます」
「大事にしろよ! これからは毎日仕事があるんだからな!」
あまり近藤さんと顔を合わせずやり過ごした…
私は…どうすればいいのだろう…
彼らに真実を教えて、それでどうにかなるのか……
「…なっるほどねぇ…」
迷った私は、梅さんに相談していた。本当は、その事実まで話すつもりはなかったけれど、
結局私の気持ちを察してくれてなのか、聞き出されてしまった。
「いや、そもそも過去にくるなんておかしな話なんで、これが本当に未来なのかわからないですけど…」
「…いんや、充分ありえる話や…しかしそんなんはいっくら考えてもわからんきに、もっとも大事なんは…」
「大事なのは…?」
「おまんがどうしたいかじゃ。夢に向かって、それこそ今勢いづいている奴らだが、
おまんが歴史を動かせるとしたら、奴らを動かすことぐらいじゃろう」
「そんな…歴史を動かすだなんて…」
「そうじゃな…今のおまんには、そんなん無理やろうな…」
「はい…」
そこで、梅さんは、はぁ、と一息ついた。
「今のままで、ええんじゃないか?」
「……え?」
「今はどうもできない、そんじゃ、時を待つだけじゃ」
「時…ですか…」
「おまんは今まで奴らをみてきて、その事実を知ったからといって、止めさせようとは思わんのじゃろ?」
「止められませんよ…あんなに目を輝かせてる人達を…」
「そしたら、今のまんま、気概をもってやっていきゃー、時がくるかもしれん」
「…」
「な〜に、絶えられんくなったら、わいのとこに来い」
「梅さん…。そこまで梅さんにしてもらおうなんて思いませんけど…そういってもらえると元気がでます」
「な〜んや、せっかく弱ってるところで惚れさせちゅーおもっとったんに」
思いっきり笑った…なんだか久しぶりに笑えた…
やっぱり、本当に梅さんに出会えてよかった…本当にそう思う…
梅さんはきっと、自分の信じた道をいけって言ってるだよね…ね、先生…
「くん!」
すっきりした気分で、屯所に帰ってくると、渡り廊下から近藤さんに声をかけられた。 「局長?なんでしょう?」
「だんご食べるかい?」
「…はい?」
「いや〜昨日いったミセのだんごが旨くてね〜届けさせたんだ」
「…はぁ」 おいで、と手をふる彼をみて、ぷっと笑ってしまった。
この人が、歴史に語り継がれる新撰組の局長なのか、そう思ったら笑えた。 「ん〜? なんだい、笑ったりして」
「いいえ、なんでも。いただきます」
「ど〜しよっかなぁ〜? 人の顔みて笑うような子にはあげないかな〜」
「そんな、いじわるしないでくださいよ」 急いで草履を脱いで、駆け上がった。私の信じる、彼らのもとへ――
この笑顔が、すぐに消えるとはつゆ知らず… 第
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