無意識の放浪記

8月22日(日)

裏道、坂川、線路、南へ。土手、田畑、物理的に遠い場所。巡り着いた野菊、小道と墓場、渡しと私の届く範囲の限界。坂川の流れと流れ、

行くあてもなく、ただ自転車で街を走った。行った事のない道、知らぬ裏道。不思議なもので、少し郊外に行くと、古い風景が残っていた。現在と過去が入り混じった街なんだと思う。私の家の近くを流れている坂川は、この辺りまでくるとまだ近代の面影が残っていて、小さな神社やお寺が川沿いにいくつかあった。線路沿い方面へ進むと、道は複雑で、入り組んでて、行止りも多かった。ただ何となく知りたくて、行った事のない場所へ進んだ。大通り、線路にかかる橋の上、線路の向こうへは行ったことがなかった。自分の住んでいる市を、大まかには頭では分かっているけど、現実がどうなっているのかこの目で見たことはなかった。

知らぬ小学校を見て、知らぬ坂川を辿り、線路沿い、主要道路に沿って、大橋へ。土手をただずっと、南へ。高く、遮るもののない土手からの景色は、とても広かった。線路、新大橋をくぐり、ただ進んだ。線路を越えると、一面田んぼと畑しかなく、何もないけどただ進んだ。もう一つの線路を越え、砂利道を歩いているとき思った。遠いんだ。物理的に。とてつもなく遠いのだ。一体どれ程距離があるんだろう。河川敷に降り、道がなくなりかけ、それでも細い道を見つけ進む。細くても、道があるのだからどこかには通じる。いつの間にか、隣の市に入ってた。ここで引き返した。

市境は小川と水門周辺らしかった。ふと見ると、坂川だった。この辺りまで流れているとは思わなかった。土手を帰ろうかと思ったが、何となく坂川を辿った。小さな橋に来たときに、気づいた。誰かが以前行ったという場所だった。ここにあったのか。そしてどうしてここに来れたんだろう。ただ、小道を追おうと思った。 進んだら戻れなくなるよ。丘へ。古い風景と家並み。ただ、辿っていった。駅まで来たところで、引き返した。道は辿らず、宛てもなく真直ぐ進んだ。分からなくなったのだ。どこに出るか分からない。小道に繋がるかも分からない。でもいつかどこかで辿り着くはずだと。土手から見えた、遠い丘の上の建物がそばにあった。墓場が見えた。墓場にひかれ、進んだ。不思議なところがある。時間の止まったところがある。行止りに遭いつつも、さっき通り過ぎた、野菊の墓場に出た。地蔵様がいた。丁度、六時になった。渡しへ向かう、小道を通り。読んだのだろうか。行きは気づかなかったが、確かに存在した。河川敷へ。…一体、自分は何をしているのか。痕跡を追っているのか…

誰もいなかった。渡しには。ただ暗い、小さな場所だった。これ以上は、進めなかった。ここまでだった。暗くなり引き返す。…手に入れるべき存在じゃなくて、失ってはならなかった存在だったのではないか。何か意味があって、この場所へ来た、道を辿ったのではないか。進んだら戻れなくなるよ、か。

坂川沿いを、辿った。線路越えで見失い、川の流れを求めて行き来した。川の流れに沿って、進む。この川は、自然にあったものではなく、人の手によって造られた。だが、人の手によって自然の流れを変えられても、時間というものが、川の周辺の流れを変える。自然だった。古い家々が。暗い川沿いに、寺の明かりが不気味だった。不思議な世界だった。いつも通っている、何百回も通っているはずの道まで来た。でも、いつも通る道ではなかった。川だけが、不気味に黒く流れてた。違う世界に迷い込んだようだった。